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ねこ座流星群
僕は星が好きで、猫が好き。だから、ほんの気まぐれで「ねこ座」と検索してみたんだ。
そしたら、あった。ねこ座。
場所は、うみへび座とポンプ座の間。
春の星座だ。
猫好きなフランス人天文学者によって1799年に作られ、その後、自然消滅したらしい。
描かれたのは、1888年が最後。
今はない、幻のねこ座。
だけど、皆がその存在を知れば、ねこ座は復活する。
ねこ座が、当たり前のように図鑑に載って、オリオン座みたいに誰もが知る星座になったらいいのに。
そんなことを思ったこの冬、世間にねこ座を広めるチャンスが訪れた。
今週末、うみへび座流星群が出現のピークを迎えるんだ。ニュースでやってた。
例年に比べて、今年は流れる星の数が多いらしい。
僕は、うみへび座の近くにねこ座があることを、できるだけ沢山の人に話した。
反応は、いまいち。
皆の関心は星座ではなく、流星群にだけ向いていたんだ。
僕は、手描きのねこ座早見表をクシャクシャ丸めて捨てた。
そして迎えた週末。
夜になって、皆が空を見上げる中、星が流れ始めた。
「あ、光った!」
「わあ、きれい」
皆がうみへび座流星群を見ている。
僕はねこ座流星群を見ている。
夜空を流れる星は、本当にきれい。
瞬きをすると見逃してしまいそうで、僕は必死に目を開けていた。だんだん目が潤んできて、涙がこぼれそうになる。
それでも目は開けたまま、拳をぎゅっと握りしめて、上を向き続けた。
今ねこ座流星群を見ているのは、世界で僕だけかもしれない。そう思うと、ひと欠片もこぼしたくなくて、息をするのも忘れて空を睨んだ。
「あ、また光った!」
「流れ星、いっぱいだね!」
「お願いごとしなきゃ」
皆が顔の前で手を組んで、目をつむった。
僕は見ている。
ちゃあんと輝いている、ねこ座の星を。
皆だって、目を開けてさえいれば、あの星は見える。
だから、幻なんかじゃない。
幻なんかじゃないんだ。
明け方、最後の流れ星と一緒に、僕の頬を涙が伝った。
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