幻猫

1/1
前へ
/11ページ
次へ

幻猫

「どうして私は、猫じゃないの?」 日向で欠伸をする三毛猫を見て、女の子が呟いた。 すると、それを隣で聞いていた少年が、手を顔の横で丸めて「にゃあお」と猫の鳴き真似をした。 「何してるの?」 女の子は眉根を寄せて少年を見る。 「僕は猫なんだ。僕が猫なら、君も猫だよ」 少年は猫目で「にゃあお」と鳴きながら、丸めた手を女の子の頬へ伸ばした。 ひょいひょいと少年が手を伸ばすたび、女の子の表情はほぐれていく。 「にゃあお」 「にゃーお」 いつの間にか四つに増えた丸い手が、磁石のように着いたり離れたりを繰り返す。 「にゃあお」 「にゃーお」 彼らはランドセルの鈴を鳴らしながら、笑い声と共に、朝露の光る路地を駆け上っていった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加