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幻猫
「どうして私は、猫じゃないの?」
日向で欠伸をする三毛猫を見て、女の子が呟いた。
すると、それを隣で聞いていた少年が、手を顔の横で丸めて「にゃあお」と猫の鳴き真似をした。
「何してるの?」
女の子は眉根を寄せて少年を見る。
「僕は猫なんだ。僕が猫なら、君も猫だよ」
少年は猫目で「にゃあお」と鳴きながら、丸めた手を女の子の頬へ伸ばした。
ひょいひょいと少年が手を伸ばすたび、女の子の表情はほぐれていく。
「にゃあお」
「にゃーお」
いつの間にか四つに増えた丸い手が、磁石のように着いたり離れたりを繰り返す。
「にゃあお」
「にゃーお」
彼らはランドセルの鈴を鳴らしながら、笑い声と共に、朝露の光る路地を駆け上っていった。
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