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「絶滅寸前だった動物や妖怪が進化し、人間と同等の知能を持つようになったいま、求められているのは生物の平等です。どんな生物も平等に仕事をし、暮らせる社会が求められています」
二時間目のライブ映像が家のモニターに流れている。内容がつまらない。
「杏、遊ぼう」
「ちょっと会合あるから」
授業にあきて三毛猫の杏に声をかけると、体のお化粧をしていた。でかける前に全身をなめるのが杏のお化粧なのだ。
「ぐすん」
ボクは遊んでほしくてわざと泣いてみる。
「九介はちゃんと授業受けなさい。できないなら、小学校に登校しなさい」
泣き落としは失敗した。
だって、と反抗しようとしたときには、杏は窓を開け、庭を横切り、姿を消した。
「天使ペンギンのホセ散歩」
ぶつぶつと先生の話が続くなか、ハイテンションな声が響いた。
映像には、天使の羽がついたペンギンが歩いている。ホセだ!
「人間社会で活躍しているホセと、他生物の暮らしを見てみましょう」
『ホセ散歩』のオープニング曲に、先生の声がかぶった。どうやら、先生が教材にと人気番組の動画を流してくれたみたい。
ホセはいつも散歩しながら、都会で暮らす動物に話しかけていく。
今回の第一街生物は尺取虫。踏みそうになった虫にホセは気づき、インタビューを始めた。
「おれゃ這いつくばってばかりの人生だ」
尺取虫は小指ほどのヒモ状の体をうねらせ天を仰ぎ直立すると、ぺたんとアスファルトに伸びた。
「飛べない鳥の僕が飛べるのだから、キミも飛べるさ」
ホセは天使の羽を見せつけた。ペンギンの翼はそのままに、白いハクチョウみたいな羽が背中でふわふわしている。ばさりと白い羽を動かし、ちょっとだけ空中に浮かんだ。
「ふん、あんたみたいな天使の羽がいつかはえるってのか。そうだ、進化と言えば、オレに似た玉取虫が最近うろついてるから、注意しな」
画面が切りかわった。尺取虫がアップだった映像は先生のアップになっている。
「このように、社会的地位を築いているペンギンがいる一方、従来の野生的な生活を送る生物がおり、格差は」
先生はたんたんと授業を進めていく。玉取虫や尺取虫には天使の羽ではなく蛾の羽がはえることには触れず。
あくびがでてきた。窓の外の空は青くて、陽ざしがぽかぽかしている。
「外、でようっと」
学校に……はいかない。
『ホセ散歩ごっこ』開始だ。
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