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小さな頃から絵を描くのが好きだった俺だが、それはまちがいなくこの叔父さんから影響を受けてのものだった。
当時、家族で祖母に会いに来ると、退屈している俺を叔父さんが手招きして自分の部屋に入れてくれた。
嗅いだことのないにおい、見たことのない画材。叔父さんの描いた絵が壁中に貼られたその部屋は未知の世界で、俺を圧倒した。
叔父さんは、画用紙と6色のパステルを貸してくれた。クレヨンともクーピーとも違う感触にすっかり魅せられて、俺はぐいぐいと絵を描いた。
何度か訪れるうちに、俺はこのパステルをどうしても自分のものにしたくなった。
あるとき、帰りがけに叔父の目を盗んで俺はその箱を自分の鞄に突っこみ、しれっと母の車に乗ったのだ。
「本当に……申し訳ありませんでした」
「いやあ、そんなことあったっけ。全然忘れてたよ」
叔父は視線をふわふわと宙にさまよわせながら微笑んだ。
「急になくなって、叔父さん困ったはずです」
「だとしても、あの頃はバブルだったし、すぐに買い直せたさ。そもそも、これはきみにあげたつもりで貸したはずだし」
そう言われても、俺の気が済まない。俺は鞄からもうひとつ袋を取りだした。
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