3人が本棚に入れています
本棚に追加
そうこうしているうちに、館内で一番大きいという水槽の前に来た。
周りにいるお客さんの数もかなり多かったが、私が小さな子供だからかいつの間にか水槽のガラスが目の前にあった。
悠々とエイが横切っていく。
水槽は大きさの割に中の生き物が少ないのか、少し寂しい印象を受けた。
こんな寂しい場所に閉じ込められて、可哀想に。
水の中を泳ぎ回る魚たちに少しばかり同情の念を覚える。
それは自身の退屈さから来ていたかもしれない。
しばらく眺めていたけれど、水槽は何も変化が起きない。
――もういいや。
私は水槽から離れようとした。
まさにその時。
「え?」
どこにいたのか、水槽の下方から巨大な何かがせりあがってきた。
それは背中に斑点模様を輝かせ、キラキラと上からの光を反射しながら、優雅に水槽をぐるりと一周する。
まるで、水の中で踊るように。
思わずその姿に見惚れていると、再びそれが目の前までやってくる。
そして、くるりと小さく旋回すると、私と正面から向かい合った。
「すごいねえ、結衣ちゃん! ジンベイザメって言うんだよ」
母の声がした。
ジンベイザメ。ジンベイザメ。
キラキラと宝石のような背中を持つ大きな君。
ジンベイザメは興味深そうに私をじっと見ている。
まるで、私の枯れた心を見抜いているとでも言いたげに。
にやりと君が笑ったような気がした。
次の瞬間。
君は舞った。
水の中を自由自在に。
きらめく宝石が躍る。
私は言いようもない高揚感に包まれた。
やがて君はゆっくりと水槽の上めがけてどんどん小さくなり、やがて光の中に見えなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!