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発端
ある雪の晩。
邸宅の敷地内にある茶室で、一人の老人が殺された。
凶器は現場にあった置物。突発的な犯行と思われた。
被害者は、名の知れた企業の会長。
面倒なことに、容疑者は10人以上いた。被害者の誕生日を祝うため、身内を集めた会食が開かれていたからだ。
中には二度目の妻や、会社の後継者として養子に入った者もおり、人間関係はなかなか複雑そうである。
すでに事情聴取は始まっているが、ショックで押し黙る者、錯乱して手当たり次第に身内の悪行を告発する者、泣きながら身の潔白を訴えることに熱心すぎてアリバイが聞き出せない者など、反応は様々だ。
被害者にはどうやら持病があり、老い先短いことが察せられていた。遺産の話が現実味を帯びてきた矢先の出来事だったようだ。
長引く不況の影響もあり、遺言の内容は定期的に書き換えられる。
今夜の会食で、近々分配を変更するつもりだと被害者から発言があったことも報告された。
「そんな事を言ったら、揉めるのなんか分かりきっているだろうに……」
部下からの報告を聞いている間も、外では相変わらずしんしんと雪が降り続いている。
現場に駆けつけた強行犯係の警視は、ため息をついた。
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