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想いを打ち消すように首を横に振り、ローザは口を開く。
「器用ですね。初めてとは思えません」
「ありがとうございま」
「あっ、褒め返しは結構です」
ローザは思わず両手をイーサンへ向けた。
すると、イーサンは顔を横に逸らして呟いた。
「……王子なのに緊張で腹痛を起こす、ってあるんですね」
「不敬発言ですか?」
珍しくイーサンの言葉に荒さを感じて、ローザは首を傾げた。
「いえ、そんなつもりは」
「わたしはそんな風には思いません。女だから優しく、とか、王子だからしっかりしている、とか。そんなものはただの思い込みです」
思わず本音を零してしまったローザ。
そのまま丸眼鏡に手をかけた。
水仕事、棘のある植物もある。男爵家で生活していた頃は滑らかだった筈の手は、1年かけて荒れたものに変わっていた。
「すみません。わたしも、この瞳のせいでいろいろと苦労してきたので……。表情がきついとか、性格が悪そうとか。だから、第三者が知りもしないのに勝手に決めつけるということが、納得いかないのです」
ローザは顔を上げた。
「余計な話をしてしまいました。忘れてください」
「……それでも」
ほんの少し躊躇ってからイーサンは言葉を紡いだ。
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