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1-1 あたらしいともだち
無人の昇降口で、唯は息を吐いた。
深呼吸をする。
肩をすぼめて吐き、開きながら吸う。
何度かくり返すうちに、重かった胸が軽くなっていく気がした。
ふいにばたばたと走る音と、楽しそうに笑う声が聞こえてくる。するとほぐれたばかりの肩がかたくなった。
音に身構えた唯の視界、廊下の先の階段から女子が何人か降りてくる。顔に見覚えがあった。おなじクラスの児童だが、唯はまだ名前を覚え切れていない。
唯を認めて、三人の児童たちが一瞬足を止めた。
「山城さんだぁ」
うん、と唯は微笑んで見せる。頬がかたい。下校の波が引いた校舎は静かだ。交わす目配せに乗せられた、彼女たちの言葉が聞こえそうだった。
「山城さんも、これから帰るとこ?」
うん、と唯はこたえる。胸で何度も言葉をくり返す。切り出してみよう、と意気込んでみる。
だが言葉はのどで止まり、それより先に進んでいかなかった――私も一緒に帰っていい?
まごついている唯を横目に、彼女たちは上履きをはきかえた。
「じゃあね!」
「ばいばーい」
「また明日ねぇ!」
わかれを告げ、軽やかに駆けていくクラスメートの背中に、唯は力なく手を振った。
いま下校すると、彼女たちと途中まで道が一緒かもしれない。唯は校舎に戻る。楽しそうな背中を眺め、ひとりで歩くのはいやだった。
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