1-1 あたらしいともだち

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「いいのよ、カバンに入る?」  五時を大幅に過ぎているのに、司書はにこにこしながら貸し出しの手続きをしてくれた。五冊の本を受け取りながら、唯は小春に声をかけるのだと決めていた。途中まで一緒に帰らない――そう声をかける。きっと小春はいやがったり勿体ぶったりしない。そう確信した唯の心臓は、カバンに本をしまう間にも激しく打ちはじめていた。  声をかける、声をかける、声をかける――決意し歯を食いしばりはじめた唯の背中に、小春が声をかけて来た。 「あの、や、山城さん」  振り返ると、小春は痛々しくなるほど強く胸元で手をにぎっていた。 「よかったら……い、一緒に、途中まで」  つっかえながらの誘いに、唯は笑顔を浮かべる。  ふたりは一緒に校門をくぐり、一緒に角を曲がり、縁石で肩を並べ足を休めておしゃべりをした。おたがい言葉が慎重すぎて、はじめは会話にならなかった。だが共通の話題があれば、会話はスムーズになる――いままでに読んだ本のタイトルは、最高の潤滑油になった。 「ふたりともなにしてるの、まだ帰ってなかったの?」  校舎から出て来た司書が目を丸くする。 「おしゃべりは明日にしたら? はやく帰りなさいね」  はぁい、とふたりして間延びした声を出し、名残惜しい気持ちを胸に手を振り合った。  暗い道を慌てて走って帰るなか、唯は小春を好きになっていることに気がついていた。
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