12-2 雨を望んで

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 小春は微笑もうとする。うまくいったかわからないが、口角を上げた。 「交代しなくていいの? あたしすぐ寝ちゃえるから、遠慮なんかしなくていいんだよ」  申し出てくれた貴理子にうなずき、三人に礼をいって歩き出した。  まだ部屋に引っこんでいない男子たちが、廊下で話しこんでいる。時田と内藤がいて、心配そうな顔をされた。なにかいおうとするので、小春は先におやすみと声をかける。  点呼と取りますので、宿泊室に待機してください――再び館内放送がかかった。 「きつかったら、夜中でもうちの部屋来ちゃいなよ、ね」 「気にかけてくれてありがとう」  優羽の申し出に、小春は素直にそうこたえた。  ほかの部屋に移るつもりはなかった。  ほかの部屋に自分がいってしまったら、唯がひとりになってしまう――そんなことを思いながら、二段ベッドの詰めこまれた、息苦しい部屋に入った。  舞子をはじめとするクラスメートたちがなにかいっている。声が遠かった。唯を探したが、直接顔を見られない。それらしき肩が、手前の二段ベッドの上段に見えた。しかし壁になるように、クラスメートがはしごに腰かけていた。 「点呼だぞぉ」  滝村がボード片手に顔を出した。ひとりひとりの名前を呼び、声が返る。山城唯――はい。声を聞いて小春は安堵した。唯はこの部屋にいる。  ぼんやり戸口に立っている小春を、滝村がのぞきこんで来る。 「どうした? 稲川のベッドはどこだ?」 「奥でぇす」
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