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舞子が指さしたのは、壁際のベッドの下段だった。
「稲川は具合悪いみたいだから、なんか気がついたら手を貸してやってくれ」
えー、と抗議の声が上がるなか、小春は割り当てられたベッドに潜りこんだ。
上掛けをめくり、布団に入ろうとして気がついた――濡れている。
「寝ちゃいなよ、具合悪いんでしょ?」
クラスメートの声の向こう、滝村がとなりの部屋にいってしまう。
さわってみると、敷き布団がぐっしょりと濡れていた。寝ろよ、と部屋でシュプレヒコールが起こった。聞きつけた滝村が、静かにしろと叱責する。
「おまえが寝ないと、うちらがうるさくいわれるんだけど」
小春はジャージの上着を脱ぎ、濡れた部分にかぶせた。そして布団のはじで身を縮めて目を閉じる。
横たわって瞑目したとたんに、身体が急速に沈んでいく感覚がした。頭のなかが回転していき、疲れを自覚した。眼球の奥が重く、熱く、全身が痛かった。
どうしてこんな状況になったのか、小春は考える。
もしも唯にいじわるをした子たちが、そしていま小春にいじわるをする子たちが、集団ではなくひとりきりだったら、こんなことにはならなかった気がする。誰かが制止していたら、唯なり小春なりが自分たちの殻にこもらないで向き合っていたら、変わっていた気がする。
確実にわかっているのは、もうどんなに後悔をしても遅いということだ。
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