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13 うそつきさがし
帰路、途中にある植物園をガイドつきでまわることになっていた。
朝には高い熱を出していた小春は、クラスメートが植物園を見学にいっている間、バスで待機していることになった。
車窓から駐車場に散らばったクラスメートを眺めた。
そのなかに唯がいて、彼女は周囲に笑顔を向けている。
会話をしている様子はなく、聞き手に徹しているらしい。
小春には唯がひとりに見えた。
周囲に誰かがいるだけに、唯の姿が際立ってひとりに映った。
ただクラスメートたちのそばに立っている他人だ。周囲が気遣った表情で、唯をときおり見る。唯は遠慮勝ちに首を振る。会話の輪に入っているのではない。受け入れられているのではない。
小春は冷たい喜びを覚えていた。
保健医の志村に渡された冷却ジェルシートをひたいに貼り、小春は目を閉じる。冷たさが心地いい。
座席シートに身体を深く沈め、時々痛む身体中の打ち身に呻いた。
熱で朦朧とする意識を眠らせようとする――努力しなくても、昨晩同様眠りに落ちるのはたやすかった。
その眠りが浅いのか、ふと意識が覚醒した。
ひとの気配を感じたと思って目を開けると、唯が立っている。
――あれ、植物園にいってるんじゃなかったっけ。
「唯ちゃん、忘れ物?」
声は割れ、枯れていた。
唯が眉をひそめる。
――ああそうだ、話をしないと。
そう思ったが、熱でうまく動かない頭が選んだ言葉は、謝罪でも弁解でもなかった。
「悪く、ないよ」
ちいさく咳をする。
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