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「唯ちゃんは……悪くない。ひとりになっちゃってる……かわいそう」
唯の顔が紅潮していった。
小春は息を吐く。
それで、ええと、ええと――話したいと思うことがたくさんあったのに。
焦るものの、次の言葉が出て来ない。
焦り出した小春を尻目に、唯はバスを降りてしまった。
「……いっちゃった……」
がっかりしながら、小春はうとうとする。目が覚めるたびに景色が変わっていた。何度目かの覚醒で、バスの車窓からのぞむものが、見知った風景になった。どっと安堵が全身を包みこんだ。
学校の校庭にバスが乗り入れ、整列しようとした小春は、滝村に先に帰るよううながされた。見れば校舎脇に祖母が立っている。
学校から連絡を受け、迎えに来てくれた祖母と帰宅した。
道すがら祖母は医者に寄ろう、と小春の肩を叩いて来たが、小春は首を横に振り続けた帰りたかった。もう自分の布団で横になりたかった――濡れていない、温かい布団で。水をこぼしたことになった布団は、朝になってもぐっしょりと濡れ、不快に冷たいままだった。
小春が布団に入るのを見届けて、祖母は仕事いくね、と出ていった。鍋におかゆがある、といっていたが、食欲はまったくなかった。
熱に浮かされながら、小春は夢を見た。
夢に唯が現れた――ふたりで図書室の倉庫にいる。
件のノートをふたりでのぞきこんでいる。
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