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小春はふらつく頭で、薬剤師がひとつずつ説明する薬を見ていた。ビタミン剤だの熱冷ましだのうがい薬だの、それぞれがかさばる袋に入れられている。買い物用にエコバックを持参した先見の明を、小春は自賛した。ただしエコバックに薬を入れると、ほかにほとんどものを入れられなくなりそうだ。
外に出たところで、声をかけられた。
「小春ちゃん?」
誰のものか、と理解する前に鳥肌が立った。
唯の母である。
最後に会ったのは葬儀の席だった。そのときに比べればずいぶん顔色もよく、表情も明るい。
「おばさん、こんにちは」
「こんな時間にどうしたの? 学校は?」
小春はたったいま後にして来た調剤薬局を指さした。
「熱出しちゃって……」
「大変。大丈夫? 家まで送っていこうか?」
「平気です。買い物して、帰るだけですから」
目指すスーパーは、唯の自宅マンションにほど近い。そのためおばさんと歩いた。歩きながらも小春がふらついているのを見て、おばさんに荷物を取り上げられてしまう。
「おばさんち、いらっしゃい。お昼にするから食べていきなさいよ。そしたら、家に帰ったらすぐ寝られるでしょう」
小春は激しく首を振る。そしてふらついた。思い出したように打ち身の痛みに襲われ、いきおい余って転びそうになる。
「ほら、そんな状態じゃ危ないから。どうせ買い物いくんだったんでしょ? そしたらおばさんちだってスーパーに近いんだし、距離なんて変わらないわよ」
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