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急に静かになった他人の家、小春は仏壇を見た。
思いついたことがある。
行動するか迷った。
大いに迷いながらも、小春の足は立ち上がっていた。ふらつくそれは、自分の足ではない気がする。
仏壇を三度振り返った。
罪悪感を覚えてしまう前に、小春は――唯の部屋に入った。
行き来があったころと、部屋の様子は変わりなかった。
部屋のすみに畳まれた布団がある。それにカバーをかぶせたものをソファ代わりに、ふたりですわって話しこんだりした。もとはおじいちゃんの部屋だったという。和室はいやだといって、唯は押し入れの襖が見えないようインド綿でカーテンにしていた。カーペットのグレーと、カーテンにした朱の鮮烈なエスニック柄のせいで、不思議な雰囲気の部屋になっている。
小春はこの部屋の空気が好きだった。
学習机に、見たことのあるブックカバーを見つけた。すぐ手の届くところにある。指はふるえることなく、すんなりそのノートをつかんでいた。
小春は薬局の紙袋の間にノートを挟んだ。エコバックにしまい、それから仏壇の前に正座をした。
手を合わせる。
私は――泥棒をしました。
行動に遅れ、ようやく動悸が高まって来た。
おばあちゃんは仏壇にいるのか、お墓にいるのか、天国にいるのか。それとも小春の真横で、おこないを憂い顔で見ていたのか。
泥棒をしたら、地獄行きでしょうか。
目を閉じた。
唯ちゃんは、悪くないんです。
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