6人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな愚にもつかないつまらないことも、帰宅するまでの間小春の脳裏で現実味を持っていた。なぜなら、小春は泥棒だからだ。悪いことをしたのだから。
帰宅しコートを机のわきに放り出すと、小春はノートを開いた。
ロイロイティルの絵の後に書かれた詩。
ページはそこで開くくせがついている。
唯ちゃんは悪くない。
悪くなんかない。
開いたノートよりも二回りちいさい紙に、小春はていねいに字を連ねていく。
ペンは交換日記のときに使っていた、にぎり心地のいいシャープペンシルを使った。学校では鉛筆以外の使用は禁じられている。小春にとって特別なことを書くときの、とっておきのペンだった。
書き損じても訂正できるが、消しゴムを使いたくなかった。
誤字のたびに紙を変え、小春は四度目に成し終えた。
一仕事を終えた小春は、くだものを冷蔵庫に入れていない、といまさら慌てた。
ついでに熱を測ると、今朝とたいして変わっていない。
小春は鍋のおかゆを少し食べ、母と祖母宛にファックスを送った。
唯のおばさんによくしてもらったこと、先方の電話番号。母も祖母もご近所さんへの挨拶やお礼にはうるさい。ファックスが機械に呑みこまれていく。
よくしてもらっておいて、自分が泥棒をしていては世話がない――ちょっと小春は笑った。
「なにやってるんだろ、へんなの」
最初のコメントを投稿しよう!