13 うそつきさがし

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 そんな愚にもつかないつまらないことも、帰宅するまでの間小春の脳裏で現実味を持っていた。なぜなら、小春は泥棒だからだ。悪いことをしたのだから。  帰宅しコートを机のわきに放り出すと、小春はノートを開いた。  ロイロイティルの絵の後に書かれた詩。  ページはそこで開くくせがついている。  唯ちゃんは悪くない。  悪くなんかない。  開いたノートよりも二回りちいさい紙に、小春はていねいに字を連ねていく。  ペンは交換日記のときに使っていた、にぎり心地のいいシャープペンシルを使った。学校では鉛筆以外の使用は禁じられている。小春にとって特別なことを書くときの、とっておきのペンだった。  書き損じても訂正できるが、消しゴムを使いたくなかった。  誤字のたびに紙を変え、小春は四度目に成し終えた。  一仕事を終えた小春は、くだものを冷蔵庫に入れていない、といまさら慌てた。  ついでに熱を測ると、今朝とたいして変わっていない。  小春は鍋のおかゆを少し食べ、母と祖母宛にファックスを送った。  唯のおばさんによくしてもらったこと、先方の電話番号。母も祖母もご近所さんへの挨拶やお礼にはうるさい。ファックスが機械に呑みこまれていく。  よくしてもらっておいて、自分が泥棒をしていては世話がない――ちょっと小春は笑った。 「なにやってるんだろ、へんなの」
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