1-1 あたらしいともだち

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 転入してからの一週間、おはようさようならありがとう――それだけでクラスメートとの交流は足りた。生まれ育った町で自分がどうやって友人関係を築いてきていたのか、唯はまったく思い出せない。小学校の友達は幼稚園のころからの友達だった。幼稚園のころからの友達は、入園前から遊んでいた。知らない顔ばかりの環境ははじめてだ。  教室は――学校は、気詰まりな場所になっている。  転入生の唯を、いまだに好奇の目で見るクラスメートたち。溶けこんでいないからだろう、どうしてもクラスメートたちが意地悪に映った。はやくも登校するのが憂鬱になっている。  それでも唯が帰宅せずに校内を歩き続けているのは、自宅に居場所を見出せないからだ。  祖母が暮らすマンションに、唯たち一家は引っ越して来た。  どこもかしこも祖母の色が染みついている。過去に遊びに来ることはあった。そのときはなんとも思わなかった空気が、いまは唯に孤独感を味あわせる。祖母の家だが、唯にはよその家だ。そこにあるのは祖母の部屋であり、祖母の台所であり、祖母の居間である。引っ越してくるとき、家具のほどんどが処分となった。唯が生まれ育った部屋や家を彩っていたものはもうどこにもない。  唯の思い出は捨てられてしまった。  唯だけでなく、両親の思い出も。  祖母の家はほぼ他人の家だ。そのうち慣れるかもしれないが、いまはまだだった。そのときではない。
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