1-1 あたらしいともだち

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 陽が落ちて、校舎は薄暗くなっていた。 「もう、帰らないと」  つぶやいてみるが、唯の足は廊下を歩き続けていた。折り返して、またはじからはじへ。足元が暗くなって、唯は二階に上がった。 「今日はお使いにいってねって……いわれてた」  お願いね、と最後に念を押すようにしていた母は、唯の帰宅がじわじわと遅くなっていることに気がついているのかもしれない。 「だから、帰らないと」  二階の廊下も、はじからはじまで歩く。二階のほうが、一階よりは明るい気がした。  たまにどこかのクラスの先生が通りがかる。唯を不思議そうに見てきても、きちんと挨拶すれば大丈夫だ。穫掴小学校の児童はみんなランドセルを使っているが、唯は手提げのカバンを使っていた。  挨拶を返してくれながらも、先生の目はかならず唯のカバンに注がれる。そして胸元の名札へ。  そしてはやく帰りなさい、と。  それ以外のことをいわれたときは、もう帰ります、とこたえればいい。そして本当に帰るのだ。  二階の突き当たりの扉、明かり取りの窓から光が漏れている。  唯の目がそちらに吸い寄せられたとき、重い音を立てて引き戸が開いた。  現れたのは女子生徒だ。確かおなじクラスだったはずだ。  一瞬で緊張した唯に、少女はかたい笑顔を見せた。 「あの、本借りに来たの?」
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