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上擦った声を出した彼女は、緊張しているのか、手がくるくると動いていた。動いたかと思うと、その手を組んでぎゅっとにぎりしめる。
「本?」
「あ、あの、違った? あの、ここ図書室なの。山城さん、だよね。私、おなじクラスなの」
「うん」
早口にまくし立ててくる彼女の名前を、唯は覚えていなかった。胸元に名札があるが、彼女の組んだ手に隠れて読めない。二本のおさげも、ちょっとサイズの大きな上着も記憶にある。彼女の席はそんなに遠くないはずだ。
視線をさまよわせていると、彼女はややほぐれた笑顔を見せた。
「私、稲川小春っていいます。図書委員やってるの。五時までだったら、本の貸し出しできるよ」
見れば引き戸の上にあるプレートには『図書室』と書かれていた。
開いた引き戸の向こう、部屋の壁に貼ってある手書きのポスターには、貸し出しの冊数は五冊まで――貸し出しのルールがある。
「借りられるの?」
引っ越しのときに捨てられた、何度も読んだ本のタイトルが頭をよぎっていく。
「うん。いま司書の先生呼んでくるところなの。なかで本見てる? ほかの図書委員いないけど、私、すぐ戻るから」
「いいの?」
きんこんかん、ちょうどそこにチャイムが鳴って、五時の放送がはじまった。まっすぐ帰宅するよううながすアナウンスだ。
「ええと、じゃあ私、ゆっくりめに歩くね。だから」
「……うん。じゃあ、私なかにいる」
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