1-1 あたらしいともだち

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 上擦った声を出した彼女は、緊張しているのか、手がくるくると動いていた。動いたかと思うと、その手を組んでぎゅっとにぎりしめる。 「本?」 「あ、あの、違った? あの、ここ図書室なの。山城さん、だよね。私、おなじクラスなの」 「うん」  早口にまくし立ててくる彼女の名前を、唯は覚えていなかった。胸元に名札があるが、彼女の組んだ手に隠れて読めない。二本のおさげも、ちょっとサイズの大きな上着も記憶にある。彼女の席はそんなに遠くないはずだ。  視線をさまよわせていると、彼女はややほぐれた笑顔を見せた。 「私、稲川小春っていいます。図書委員やってるの。五時までだったら、本の貸し出しできるよ」  見れば引き戸の上にあるプレートには『図書室』と書かれていた。  開いた引き戸の向こう、部屋の壁に貼ってある手書きのポスターには、貸し出しの冊数は五冊まで――貸し出しのルールがある。 「借りられるの?」  引っ越しのときに捨てられた、何度も読んだ本のタイトルが頭をよぎっていく。 「うん。いま司書の先生呼んでくるところなの。なかで本見てる? ほかの図書委員いないけど、私、すぐ戻るから」 「いいの?」  きんこんかん、ちょうどそこにチャイムが鳴って、五時の放送がはじまった。まっすぐ帰宅するよううながすアナウンスだ。 「ええと、じゃあ私、ゆっくりめに歩くね。だから」 「……うん。じゃあ、私なかにいる」
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