1-1 あたらしいともだち

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 入れ替わりに廊下を歩く小春の背を、唯は見送った。彼女は二度振り返って、唯に笑顔を見せた。そこに本当に唯がいるか、小春は確認していた。そして唯がいることを喜んでくれている。  唯は歓迎されていた。  転入して以来、唯の肩からはじめて完全に力が抜いていた。  小春の笑みは緊張し、それは唯が校内の鏡で見た自分のものとよく似ていた。小春が浮かべたのは、ほかの視線のような――唯を値踏みするものではなかった。  そっと足を進めた図書室は広く思えた。  以前に通っていた小学校は、もっと田舎にあった。建屋ばかり大きい古い学校だ。本棚はすべて腰の高さまでで、高学年向けの本が少ない場所だった。  ぐるりと見回したこちらの図書室、書架は天井近くまで高さがある。移動式踏み台がいくつも用意されていた。  明るい照明と、たくさん並んだ机と椅子。  誰もいないのが不思議なほど、居心地がよさそうだ。  手書きで『高学年向き』との案内が貼ってある棚で、唯は借りる本を見繕うことにした。  ギリシア神話の文字に目が止まる。居並ぶタイトルに視線を滑らせた。  ホメロスのオデュッセイア、オウィディウスの変身物語。  好きで何度も読んだ本だ。  手に取りながらも、唯の目はほかの背表紙の文字を追っていく。夢中になってしまい、小春と司書が図書室に戻っているのに気がつかなかった。 「すみませんでした……」
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