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「文月、それちょっとひどいこじつけじゃない?」
「そうかな」
文月は服の値札を見て嬉しそうに笑った。そして「これにしよ」と言って、そのシャツを大事そうに抱きしめる。
「でも、それってあると思う。だって、若菜の家族って変だもん」
「変って、なにが」
渡足が訊くと、文月はふっと笑って、シャツを棚に戻すと、すたすたと店の外に歩いて行った。私はそれをあっけにとられながら見て、でも、すぐにはっとして追いかけた。
「ちょっと、文月、どこに行くの!」
だけど、そう歩かないうちに文月は足を止めて、私に腕をつかまれる。そしてくるっと振り返って、言った。
「何で多恵姉ぇはあたしを止めたの?」
「何でって、どっか勝手にいかれたら困るでしょ」
「だよね」
文月は笑って、服屋に戻るために歩き出す。私はわけがわからないまま、文月の後をついていく。
「多恵姉ぇも知ってると思うけどさ、若菜の家族はパーキングエリアで、トラックに突っ込まれて死んだんだよ」
「うん。それは知ってるよ。それがなに?」
「それで、若菜は一人だけ、トイレに行ってたから助かった」
「……え」
そう言われて、私はようやく文月の行動の意味が分かった。確かに、若菜の家族は文月の言っている通り、変だ。
「あの時、若菜は一年生だよ。吹雪のパーキングエリアで、一人でトイレに行かせるなんて、若菜の家族は変だよ」
「……それは、そうだけど」
「だけど?」
文月は少し挑発するような口調で私の言葉を繰り返す。私たちはまた服屋の中に入った。店員さんに「いらっしゃいませー?」と言われた。
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