0人が本棚に入れています
本棚に追加
「だけど文月、若菜の家族って、そんなに仲悪そうだったっけ? そんなイメージ、ぜんぜんないけど……」
「いや、多恵姉ぇ、さ、あたしたちと若菜の家族って、そんなに会ってなくない? あたしが覚えてるのでも、三回くらいだよ。それに、家族の仲なんて、一か月もあれば簡単に変わるよ。多恵姉ぇが知ってる若菜の家族が、本物っていうわけじゃないんだよ」
シャツの棚に戻ってきて、文月はまたシャツを物色し始める。そして、『What you see cannot be true』とやたらおしゃれなフォントで書かれたシャツを手に取って、「なんて意味?」と訊いてきたから、私は、少し息をのんで、「あなたの見るものは、真実ではあり得ない」とこたえた。文月は「おお、なるほど」と笑って、でも、「これも買おっと」と言って抱きしめた。
「まあ、こじつけかもね。ぜーんぶあたしのひどいこじつけ。でもさ、多恵姉ぇ、違うなんて言い切れないよ。それに、それならそれで、若菜は幸せだよ。ひどい家族とさよならできたんだから」
「そんなこと……」
その後の言葉は言えなくて、私はうつむいた。
「ないならないで、あたしはいいと思うよ」
そう言って文月は二枚のシャツを抱えると、レジに向かっていった。
私はその背中を見た時、なぜか小学四年生の文月が私なんかよりもよっぽど大きな気がして、ひどく戸惑った。
最初のコメントを投稿しよう!