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夜。雨粒が窓にたたきつけられる音を聞きながら、私は若菜に送る手紙の文面を考えていた。昼に文月が言ったことを、確かめたかった。でも、そんな事を直に文章で書けるわけがない。だから、若菜に倣って歌でも書くべきなんだろうけど。
「思いつかないっての……」
こちとら俳句と川柳の区別もつかないのだ。気の利いた歌なんて、書けるわけがない。
机に突っ伏して、息を吐く。なんだか自分がすごくちっぽけで、取るに足らない存在で、幼稚な、そんな気がしてきて、やるせない思いにつぶれそうになる。
雨の音が、どんどん大きくなる。風も、さらに強くなっていく。
この嵐の夜は、忘れることができなさそうだ。
自嘲気味に笑って、私は便箋をくしゃりと握りつぶした。
五月四日の夜は雨。五月五日がどうなるかは知らないけど、こどもの日に向かって、暗い空はじわじわと駆けていった。
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