俳句だか川柳だか分からないけど十七音の例のあれ

4/12
前へ
/12ページ
次へ
『あらしの夜 こいのぼり見る おもいだす』  若菜は、小学生のくせになかなか風流なことをするようだ。私はううむ、と唸って、しかし若菜の心を垣間見た気がした。 「……まあ、やっぱり寂しいよね」  事故は、新潟に入ってすぐのあたりのパーキングエリアで起こったらしい。当時はひどい悪天候で日の光もろくに届かないくらい視界が悪かったようで、その影響でトラックが駐車中の桑名家の車に突っ込んだそうだ。幸いその時若菜ちゃんはトイレに行っていたらしくて、一人だけ助かった。  こいのぼり。それは、家族を連想するには十分なしろものだ。そして、あらし。事故の当時は悪天候。だから、この歌は、事故と家族を思い出している、そういう歌なんだと思う。  多分、若菜は本心ではすごく不安だろうし、すごく寂しいんだと思う。だけどそれを直接言ったら私たちを心配させるし、しかしかといってずっとそのつらさを抱え込んでいるわけにもいかない。だから、若菜は歌に乗せて、その思いを吐き出したんだろう。  なんというか、やっぱり風流な子だ。私が小学二年生の時なんて、縄跳びで二重とびができてどや顔になっていたっていうのに。 「これは、私も歌で返さなくっちゃね」  手紙を置いて、私は支度を再開した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加