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外にお昼を食べに行く。それは買い物も兼ねてのことだったようで、私たち家族四人は車に乗って、六キロほど離れた旧瑞橋という場所にある、『イロン』という際どい名前のショッピングモールに行くことになった。そこにはうどん屋さんもあるから、文月の希望が無事に叶いそうだ。しかし、私もすでにお腹の気分はカツのせカレーうどんになっているからなんの問題もない。むしろ勝利。
「あ、こいのぼり」
大百川に架かる烏畑橋を渡っていたら、隣に座っていた文月が小さく声をあげた。窓の外を眺めていたから私もそっちを向いてみたら、大きなこいのぼりがはためいていた。
「って、けっこう天気悪くなってきたね」
数十分前の青空はどこへやら、灰色の雲が空を覆って、風も強く吹き始めている。おかげでそのこいのぼりもバタバタとはためいて、絡み合っている。
「そっか……」
また、文月はつぶやいた。私は首を傾げて、文月の横顔を見つめる。
「そっか、って、なんかあったの?」
文月は首を振って、「なんでもない」と答えた。だけど私の耳元に顔を近づけて、
「多恵姉ぇは、あの手紙読んだ?」
「うん? 読んだけど」
「そっか」
それだけ言って、文月はまた窓の外を眺め始めた。
十年弱文月の姉をやっているけど、どうにもこの子の考えていることがわからないことが、よくある。
まあ、そんなものかな。
私もべつだん問い詰めるなんてこともしないで、窓の外を眺めた。私の通う池場高校のあたりを通ったとき、私の好きな人が歩いているのが見えて少しうれしくなった。
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