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それで、ご飯を食べた後は分散して行動することになった。私は特に買うものもなかったから本屋にでも行こうと思ったんだけど、文月が私と一緒に回るといって聞かなかったから、仕方なく文月の服選びに付き合うことになった。だから母と父は私たちに服を買うお金を渡して、それぞれ目的のお店に向かっていった。
「なんかあったの、文月? 私と一緒に服を買いたいなんて、ずいぶん珍しいじゃん」
お母さんたちと別れてすぐ、私は文月にそう訊いた。普段はあんなわがままを言う妹じゃなかったから不思議だったのだ。
文月は「うん」とうなずいて、黙る。それで二人でしばらく歩いて、服屋の前まできたあたりで、文月は周りをきょろきょろと見て、こう言った。
「お母さんたちには、聞かれちゃいけないかな、って思って」
「なに、恋バナ?」
「ちがうなにいってんのばかなの多恵姉ぇは」
すごくまじめな口調でそう返されて、すこしぞくっとした。この妹、今絶対私のこと見下してるな。さすが文月。
「あの手紙のこと。若菜からの。……ねえ、多恵姉ぇは変だな、とか思わなかったの? っていうか、今までなんとも思わなかったの?」
「ん? いや、別に。……今まで? って?」
「若菜のお母さんたちが死んでから、今まで」
「そりゃあ、若菜もかわいそうだな、とか、大変だろうな、とかは思ったけど。……あ、手紙ってあの俳句、ああ、いや川柳? のこと? いや、さすがに私もあの意味くらい分かるよ、家族と事故のことを思い出して寂しい、とか、そういう事でしょ」
その言葉に、文月は眉をひそめて、それで、「そうじゃないとおもう」と言って首を振った。
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