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文月は服屋さんの中に入っていく。あたしも彼女を追って。店員さんに妙に高い声で、「いらっしゃいませー」と言われた。
「そうじゃない、って、なんで?」
文月は、店の奥の方のシャツの置いてある棚を物色し始めた。私はだから、文月の後ろからそう尋ねてみた。文月は胸のあたりに大きな文字で『non-sense』と書かれたシャツを抱えたまま、振り返って、
「何で多恵姉ぇは、若菜があの歌で事故の事を言ってると思ったの?」
「だって、『あらしの夜』、でしょ? 事故のときも嵐だったみたいだし」
文月はそれを聞いて、ふう、とため息をついた。
「新潟の冬の嵐は吹雪でしょ」
「……あ」
「あの手紙が書かれた頃の嵐とは、ぜんぜん違うよ?」
たしかに。私たちは冬に新潟の祖父母の家に行くことはないから失念していたけど、新潟は豪雪地帯だ。冬の顔はほかの季節とは全く違う。
「だからたぶん、あの歌では事故の事は言ってないと思う。ぜんぜん景色がちがうんだもん。それに、事故ってお昼に起きたんだよね」
「うん、お昼に。……ああ、だから夜はちょっとおかしいのか」
「そういうこと」
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