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行けども行けども…書物の山。灯りを置いてそれをどかし、次の間の扉が開くと、他には扉がないかまた探し、あれば灯りを置いて山をとがしてまた、扉に手をかける。
「人を雇って整理ぐらいしておけ!」
サユキ家よりも位が高いミクニ家のソウは、すでにこの世にいないホシの父親をさっきからずっと責め続けている。
ホシには不可解でならない。ここに魔力の書物を隠してなんになるのか。
「もう一人は来なかったのか?」
「…夢中ですから、あっちに」
ソウが書物をどかしながら、栗色に聞くと灯りを持った手をぐるりと動かしてなにかを見て、考え事をしていたのか、返事が遅れる。
「こっちに扉がある。開けてみます」
ホシが手を掛けると、それは今までとは違い、抵抗があり開くことはない。
「あなたは下がっていた方がいい。もし、魔力で封がしてあったら、あなたみたいなのは危ないから」
ソウを下がらせると、栗色は扉を検分にかかる。鍵穴を覗いて、ああ…と納得するとホシに振り向いた。
「封具と同じ仕組みで鍵がしてあります。中の魔力を外に出さないように、碧色の宝石をはめた扉で封がしてあるんです」
「さっきも言っていた、封具とはなんなんですか?」
ホシも鍵穴を覗き込んで、その中にある宝石を見ている。灯りを近づけると、チラチラと光る碧が良く見えた。
「魔力に蓋をして、外から見えなくするものです。訓練して見に付ければ僕のような者に匂いも嗅ぎ取られません」
首、両腕、両足で一組になるであろう、あの仰々しい装飾品を思い出したのか、うわ、大変そうだなとホシは言う。
「あなたも魔力持ちですから、訓練されたでしょう?僕の兄は一度死にかけたと言ってました。魔力に焼かれるとは恐ろしいものです」
栗色は自分もそうなったことがあるかのように身震いしたが、それ以上はなにも言わなかった。
「私は特になにも…訓練はしていません。物心ついた時にはもう身に付いていたような…」
「そんなことあるかな…」
また栗色はさっきのように目を開いてホシを見ると、その耳にかかる髪をかき上げる。違うなと、マントを引っ張って首を覗いたり、手首を掴んで服をめくりあげたりとあらかた調べてみて、顔に目が戻ると、指を指す、これか、と。
「眼鏡はいつから?」
「幼い頃からです。目が悪くて」
「身体が成長すれば取り替えるものですが、それはどこで手に入れていたのです?」
「父が買い替えてくれました。成人してからは自分で選ぶようになりましたが…」
眼鏡を外して栗色に渡すと、これは違うなとさっさと返されてしまう。
「眼鏡の封具なんて、あの人もよく考えたものだ」
懐かしそうに笑う栗色が髪をかきあげると、耳に付いた小さな碧色の耳飾りが光っていた。
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