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「太陽は空に輝いています、その光は花を咲かせて…」 家庭教師の朗読を聞きながら、王子はうつら、うつらと船を漕ぐ。 「王子様、眠くなってしまいましたね。お休みになりますか?」 控えていた侍女の一人が、問いかける。 「うーん…僕には、この話は難しい…ホシ、外に遊びに行きたいよ」 一度行きたいと言い出すと王子は聞かない。外に行きたい、行きたいとホシの朗読には耳を貸さなくなる。 「では王子、少し外へ散歩に出ましょう。この書物は置いて行きますから、気が向いたらお読みになってみてはいかがですか」 ホシは読んでいた書物を机に置き、その下にもう一冊持って来ていたのを滑り込ませる。 「王子様は本当に可愛らしい。いつまでも赤子のようで」 侍女は嬉しそうに、あくびをする王子を見てコロコロと笑う。 「やった!外だ!外!」 王子は室内から外へ走り出て行く。お待ち下さい、とホシが追いかける。付いて来る侍女へ、水の用意をと頼みホシは一人でその後を追う。 王子が走って行った先は、城の中庭にある開けた芝地だった。そこに寝転んでいる姿を見つけると、ホシはその横に座る。 「どうだ?セノの魔力はだいぶ強そうか?」 先程とは違う、はっきりとした口調でホシに問いかける。 「魔力はありそうです。ただ、あまり強くはない様子です。それにセノ王子はまだ幼いですが…。」 言い淀むのを、王子は促す。 「ミツ王子の幼少期に比べれば、聡明さは雲泥の差。かわいげがあると言えばそうですが…」 ミツは芝地を笑いながら、ごろごろと転がってみせる。 「ホシ、面白いぞー!」 後ろを見ると、水差しを持った侍女がこちらへ向かって来る。 「王子、お待ち下さい。それではお召し物が汚れてしまいます」 ホシはその姿を追いかける。 幼い第二王子の魔力について聞くこの王子、ミツも歳は七つ。かわいげのある弟に比べ、非常に賢いが。ホシと二人だけの時以外はそれを隠し続けていた。 この王子には、生まれながらに魔力を全く持たないという致命的な欠陥があった。この国を治める王が後継者に求める素質という点での欠陥だが。 持たないものは、逆立ちをしても手に入らない。第一王子が魔力を持たず、頭だけは良いとわかれば命を奪われかねないと。ミツは考えたのだろう、こうして魔力を持たない、頭の良くない子どもを演じている。 「我儘でお気楽な王子」それがミツの愛すべき所と皆に思わせていた。ホシ以外には。
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