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セノ王の即位によって体制の変わった東の国は、王の最側近の大臣と勘定方を兼務してホシ、将軍の引退と共に副将軍のソウが将軍に、山の砦での武功が認められて、異国の民ウタウが異例の騎士団長に昇進となった。 ミツと呼ばれるセノが北の国から戻り、こちらにも役職が与えられたが長年不在でいた王子の立場は弱い。 ウタウの山の砦での武功とは、長年に渡って砦の襲撃を繰り返した賊の一味「魔王族」を殲滅したことによる…とは沙汰を下す名目だったが。 魔王城を見つけ出し、「魔王族」とは無関係とシノビの国に報告を上げ、王位継承の選挙で王に選ばれてもなお、東の国に力を貸すと、国には影武者を立てこちらに戻った…という忠誠心によるところが大きかった。 これが王の言うところの「ウタウへのご褒美」というわけで、自分というおまけも付けたそれは、かなり大きなご褒美だった。 「シノビの国の王を雇っているなんてよく考えれば恐ろしいことだよ」 そう言ってソウはホシの髪を撫でながら、窓の外で鍛錬をする騎士達の姿を見ていた。 「あんまり喜んでなかったもんな、騎士団長になれって言われても、おまけみたいなもんなのかもな」 ホシはソウの手をシッシと振り払いながら、お前はもう行けとその手で外を指す。ソウは外を見て。あれでも?と首を傾げる。 そこには王が剣を背に、ウタウの元へ向かい、それを、こちらが初めて見るような笑顔で迎える姿があった。 「あーあー…なんだよあの顔は…」 この部屋の窓からは外が本当に良く見える。 ソウは鍛錬を見に行く気は全くなく、窓際の壁に背を預け秘密の部屋の来客を見た。 黒髪に切れ長の目をした男は、武具を見て、もっと喜ぶかと思っていたが。そうではなく、神妙な顔をして装飾品を見ながら隣の男と言葉を交わしている。 「この装飾品ですが、恐らく甲冑と同じ数、あったと思われますが、なにか見覚えはありますか?」 ホシが二人に歩み寄り、聞くと黒髪の男はしどろもどろになって上手く喋れない。それを横でつつきながら、これではだめだと思ったのか栗色髪の男が話を譲り受ける。 「まずは、僕らの正体を明かさないと話が進みません」 な、と栗色髪は黒髪に同意を求めると、隣は何度も頭を縦に動かす。 「槍で四方を囲んで串刺しにするとか、しないと約束してください、特に彼を」 黒髪はもう両手を挙げて、自分は無害だと示している。 ホシが「約束する」と告げると、栗色は話を続ける。 「僕らを魔王の城に住み着いた者と思われているかもしれませんが、実は彼は元魔王です」 ホシが黒髪を見て、ソウは剣に手を添える。 「でも、魔王はもういません。魔王の力は勇者の魔力で浄化され、きれいサッパリ、流れ出てしまったんです」 「ちょっとおかしな魔力ってやつか」 ホシはソウの元へ歩み寄り、剣に添えた手を下げさせる。 黙っていた黒髪が口を開く。 「装飾品は封具と呼ばれるものに、持ち出した者が加工して形を変えたのだと思います。年代から考えると、先々代の魔王がこの甲冑と装飾品の作り手かと」 黒髪がマントから、使い込まれた金色の装飾品を出す。 「女の魔王であった時期とも、一致します」 栗色がマントから、まだ比較的新しい書物を出す。 それの背には「歴代魔王記Ⅱ」と書いてある。
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