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黒髪は自分の素性を明かすと、気が楽になったのか、今度こそ、目を輝かせながら武具と装飾品の細かい部分を観察し始めた。
「すみません、彼には宝物のように見えているようです、碧色の宝石が森ではなかなか、見つからないものですから…なにか、これに関する書物はないですか?これだけあればありそうなものですけど」
栗色髪は秘密の部屋から続く外の書棚を見て聞くが、ホシは首を振る。
「ここには、魔力に関する書物が一冊もないんです」
「一冊もない?ちょっと見せてもらいます」
扉から出て、書棚の間を上から下へ、隈なく見て回ると、確かにと栗色髪は一つの書棚を指した。
「あったことは、あったのでしょう。あの書棚の並びが不自然だ。出して新しく入れたような」
ホシと栗色髪は背丈が同じ位だったので、横を見ただけで目が合う。その目の色は髪と同じで茶色く、髪と違うのは、瞳は下の部分が黄色いぼかしを入れたように茶色に色が混じっているのだった。
「書物は魔王の城に持って行ったのかもしれません。部屋いっぱい、たくさんありますよ。ただ…あんな山奥に持って行けるかな…」
マントの中で、鍵がチャリと鳴った。ホシが鍵のなさそうな部屋をもう一つ、二つ思い出す。
「私の居宅は広いのですが、人が住む場所は少しの広さしかないのです。そのほとんどは、書物の部屋です」
鍵を出すと、それは一つ。
「いや…鍵穴を同じにするなんて、難しい話だ」
自分で言った言葉を否定すると、ホシは鍵をまたマントにしまう。
「開かない部屋がある?あなたの居宅に」
「いや、それすらもわからない。なんせ部屋のほとんどが書物なんだ」
今度は栗色髪が目を輝かせる番だった。
「荒れた書物の部屋ですか?手が付けられていないような」
こういうのではなく、と大きな目を見開いて書物庫の書棚に両手を広げて確かめる。
「こういうのではなく、もっとざーっと書物が置いてあって、床にも積まれています。整える者がいないので」
「一度、拝見出来ますか…ああ…開かない部屋があるかもしれませんから…それは…鍵で閉まっているわけではないかも…」
そう言って、ホシに近付けた目の中には半分の月のような黄色が光っていた。
「ならば今夜にでも」
そう誘うホシの上から、声が降る。
「なにが今夜だ?私も行こうか」
そんなソウを栗色髪は、来ないほうがいいと止めた。クンクンと鼻を動かして、あんたは危ない、来ないほうがいいと、もう一度言った。
その鼻を動かす仕草には、ホシは見覚えがあった。
「彼はな、魔力と書物の分類を好むらしくて、都で魔力の学問を修めたそうだ。書物の方は趣味のようだが…」
魔道士の道具に夢中な元魔王と、魔力を持たない魔力博士、おかしな組み合わせだと、ホシは二人を交互に見た。
「ソウ、あちらには、本当に魔力がないのか?」
「ああ…ないが、俺と同じだ。魔力を吸える体質。しかもウタウと同じで、魔力を嗅ぎ取ることができる」
本当におかしな組み合わせだが、ぜひ味方に欲しいと、また、ホシは二人の間に視線を行き来させた。
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