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「ミツ様がお戻りになられました!」
結局、ホシの家で見つけた秘密の部屋は開けられないまま、ミツとして少年時代を北の国で過ごしたセノが、見た目は一人前の青年になって帰って来たのは、その数日後のことだった。
その帰り道に付き添ったのは、それを送る護衛をした、北の国の魔導士。その時は魔導士ではなかったが、その後免状を取り、民間の魔導士紹介所を伴侶と営んでいるらしい、とは、ホシはソウから聞いていた。
武具と装飾品を見分し終えた元魔王と魔力博士は、また山の中の城へと帰っていたし、あの部屋はミツが気に入り「王の部屋」としてしつらえを変えて使い始めていた。もっと立派な、半分地下ではない広い王の執務室があるのに、書物庫の隣がいいとミツはそこに執着して部屋が整うと案の定、そこに籠ってしまうことが増えた。剣術の稽古以外は、だが。
「王子のお帰りだというのに、他国の魔導士一人と走って帰って来るなんで、無防備過ぎるだろう、ホシ」
到着した時は汗をかいて、競争にどちらが勝ったか言い合いをしていたという二人に呆れて、ミツはホシに文句を言ったが、その顔は本気ではなかった。
「魔力の足で帰れば半日なのだそうです。全く、便利なものですね、魔力と言うのは」
近頃やっと魔力を外に出し始めたホシにはその使い方がわからないし、魔導士の役割も今まで気に掛けていなかった。この国では前王が魔力に執着していたにしては魔導士が少なく、立場も弱い。
ホシは魔力を担当する大臣も兼務することとなり、魔導士の元を訪れたが、その時は皆で「お守り」の内職をしていた。年の変わり目に城で売るものです、とそれを見せた魔導士長は、そんな職務に特に不満があるわけではないようで、誰が上手く作るか、誰が手早く作れるか…なんてことを細かく教えてくれた。
「私たちが静かにしていられるのはこの国が平和な証です。なにも武具を使えるようにしなくても良いかと思いますよ」
そう、魔導士団長は、のらりくらりとホシの持ってきた厄介事を断った。ねぇ副長?と聞いたその先には、自分の前にお守りの山を築き上げた魔導士団副長の姿があった。
「うーん、まぁそうですかね」
ホシよりは若く、成人したばかりの副長はお守りを作る手を休めず、一個でき上るとそれにちょちょっと魔力のまじないを入れて、また次と手を伸ばした。
無理強いも良くないと、部屋を後にしたホシを追いかける足音が聞こえたのは、廊下をしばらく行ってからだった。
「大臣様、大臣様」
おかしな言い方をしながら駆け寄って来る副長の手には先程のお守りが握られている。
「ホシでいい。大臣に様はおかしな言い方だ。他で使わないように気を付けろ」
「あーっと…すみません。ホシ様。」
どうした?と聞きながらホシは眼鏡を外してそちらを見る。
「私はソットと言います。まだ一年目なのですが、副長をしろと言われまして、雑務は全部、私がやってるんです」
「皆、面倒がってやらないのを押し付けられているんだろう?」
ミツではなく、自分が町の子どもに産まれて弟がいたらこんな感じかなと思わせるようなソットに、ホシは気さくに声を掛けた。
「そうとも言いますね。あの…これでいいんですか。魔導士の仕事って」
ソットはお守りをホシの目の前に突き出して、真っ直ぐな目をして聞く。
「そうではない。魔導士はもっとその力を生かして国を守る役目がある」
ホシはそのお守りを取ると、もらうぞとマントにしまいながらソットに目配せをする。
「今度私の部屋に来なさい。少し、話をしよう」
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