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「魔道士団副長ねぇ。ホシもなにを考えているんだか」
椅子に座らせたウタウの上で、身体を揺らせながら、時に弓のように反るミツの姿を、息を荒く吐きながら下の男は見ていた。
ミツは首にしがみついて、最後に腰の動きを更に速めると、ウタウはその肩口の布地に噛みつき声を殺す。
そうしていいと言ったのは、ミツだった。そのくせ喋るな、触るなと命令した方は、それなりに声を出して、気持ち良さそうにしているのだからどういうことだろう。
『声が出せない、というのは大変だな。あんな快楽の渦に巻き込まれて悲鳴をあげない方がおかしい』
『そうです。その通りです。声と手を出す許可をください』
稽古の休息中にウタウは頼んだけれど、ミツは許可をくれなかった。
『必要なことだ』
そう言って剣を持ち、また稽古に戻った。それはウタウが山の砦に行く時に忘れていったものだった。王様なんですから、宝石をあしらって柄は金色、なんていうかっこいい剣を作ればいいのにと、ウタウは助言したけれど、これがいいとまたそれを使い続ける。
稽古の時は、話したいことを溜めたウタウがやけに口を開いてしまうのを、ミツが聞く役だったけれど。王の部屋でのミツは饒舌だ。
「ホシはな、魔道士に重要な役割を担わせて地位を上げたいんだと。だけど魔道士の長は長年、大した仕事もなくぬくぬくしてしまったからな。副長は若いし、そっちに目を掛けたいようだが」
椅子から立ち上がれずに、余韻に浸るウタウを綺麗にしてやって。それでもう下がれと、放り出す主ではない。額や鼻に浮かぶ汗を拭いてやりながら、愛の言葉を囁く。
「ウタウ…本当に君は素敵だね」
いくらしても足りないと、数日前も言っていたけれど、また同じことを言いながらあちこちに唇を動かす。
もう、ウタウはこういうのには慣れて、どうしていたらいいかと言うと、ミツの姿を目で追っていればいいのだ。
この国の民特有の、黒い髪に、黒い瞳、白い肌の色。髪の毛には艶があり、真っ直ぐなその先は耳の上あたりで止まる。剣術に長い髪は不要と、王族であれば少し長い位が気品があると言われても気にもしない。
瞳には濁りがなく、輝くような光もないがいつも真っ直ぐに前を見ている。
白い肌には、右の目の下から口角の上にかけて赤い傷跡が残る。それには未だに誰も触れていないかもしれない。
「ホシな、最近はあくびこそしないが、目が開いていないことがある。眠くて、眠くてしょうがないようだ」
ウタウにまた、またがり、胸に顔を埋めて、ミツが深く息を吸い込みながら背中に腕を回して、ウタウ…と熱く囁いて、力を込める。
「ソウが、しつこくてしょうがないんだろう。副長と、して、ソウにそれ以上とされれば、毎夜眠れないだろうな」
いかがわしい書物の朗読のようで、また欲望が膨れ上がるのを自分の下に感じたミツは、だーめ、と頬の傷をウタウの頬に擦り付けた。
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