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 希望が電話を切って振り返ると、そこに春佳の姿はもうなかった。  消えた? もしかしたら体に意識が戻ったのかもしれない。  というのも、先ほどの電話で彼女の事件が進展する可能性が出てきたからだ。希望は数々の書類の中から、1枚抜き取る。  春佳には言わなかったが、あの夜の出来事で容疑者として一人の人間が挙げられていたのだ。 『桜井(さくらい)裕也(ゆうや)(22)飲食店勤務』  この男が運転する車が春佳の家の方角から、猛スピードで走り抜けるのをコンビニの防犯カメラが捉えていたのだ。  不審に思った警官が彼のGPSを追ったところ、ある山道に入っていったのだ。元々走り屋として管内でも有名だった桜井は、そこへ行った理由を問われた際、笑いながら答えたという。 「俺が山道走るのなんていつものことじゃないですか。他に何か理由があるとでも言うんですか?」  しかしその後に彼の車が修理に出されていることを知り、警察は令状を取って家宅捜査に乗り出したが、何も証拠を押さえることは出来なかったのだ。  桜井が事故を起こした場所も特定されたが、春佳に関する証拠はあの日の雨によって全て流れた後だった。  だからたとえ幽霊であっても彼女の証言は大きかった。  やはりあの山のどこかに彼女はいたんだ……!  彼女に伝えることは出来なかったが、先ほどの電話で場所がいくつか絞れていた。あとは明るくなってから捜査に向かうだけだ。  希望は俄然やる気を出した。  
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