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希望は車に乗るとすぐに電話をかける。
「あっ、もしもし! 近間です!」
『あぁ、どうした?』
「また私の戯言と思って聞いていただけますか?」
『……そうか、今日の遺体発見はそれが理由だったんだな。で、何か言ってたのか?』
早川は希望とペアを組んでいる三十代半ばの刑事で、彼女の能力を信じてくれていた。だがそのことで捜査に余計な過信を生まないよう、証拠や裏付けのないものは事実として受け取らない確固たる信念を持っていた。
彼と出会うまでは、希望自身霊の言葉を全て信用していた。しかしそれはただの証言であり、それが事実であるかは生きている人間が実証する必要があるということを、希望は早川から教えられた。それこそが警察官の仕事であると。
「彼女、死ぬ時に自分の右手に何か光るような物が刺さっていたと言っています。確か桜井の車のヘッドランプのカバーが割れてましたよね」
『あぁ、しかもどこを探しても見つからない欠片があったな』
「……見つかるでしょうか」
『見つけるさ。あいつがやったことはわかっているんだ。野放しになんかしない』
* * * *
電話を切った早川は、その足で科捜研に向かった。
明け方に意気込む希望から連絡を受けて合流し、遺体を発見した。本当に不思議な奴だなと思いながら、早川は希望と別れて先に署に戻っていた。
「あっ、早川さん」
昨年入ったばかりの若い男性所員が、早川に気付いて声をかけてきた。
「今朝見つかったご遺体のことで確認したいことがあったんだが」
「あぁ、それなら所長を呼んできますね」
「いや、一緒に行くよ」
所長のいる部屋に案内されると、中では大量の土をふるいにかけて証拠品の採取をしているところだった。
白髪混じりの髪のひょろっとした体型の所長は、早川に気付くと疲れたように笑った。
「ご遺体が埋まっていた場所のまわりの土なんだけど、土砂崩れのせいで捜索範囲が広がっちゃってさ、土の量も膨大。もう大変だよ」
「ですよね。でもさっき昨年失踪した金山春佳さんと骨格と歯の記録が一致したと連絡がありましたよ」
「あぁ、聞いたよ。随分と特定が早かったけど、やっぱり近間ちゃんのアレ?」
早川は苦笑いをして頷いた。
「となると、君が来たのは何か探し物かい?」
「さすが所長。実はヘッドランプの欠片が出ていないかと思いまして」
「……すごいな。ドンピシャだよ。ついさっき見つかって濱野に回したところ。行ってみなよ」
「本当ですか⁈ ありがとうございます!」
部屋を出た早川は思わず笑ってしまう。なんなんだ、この絶妙なタイミングは。
確信を持ちつつも、証拠が足りなくて逮捕には至らなかった。だがこれでようやくあいつを捕まえられるかもしれない。
早川は自身に喝を入れると、濱野の元へ急いだ。
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