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最後に見た景色はどんなだったかしら……。
あまりにも唐突だったからあまり覚えていないの。
その日は雨が降っていた。背後から車のライトが近付いてきたかと思うと、激しい痛みと共に体が宙に浮いて、地面に叩きつけられた。
私の僅かな視界に映ったのは、駆け寄ってくる白いスニーカーと、手の甲に突き刺さった何かの破片だけ。
あぁ、もうダメなんだわ……そう思うと視界は徐々に狭まり、そして真っ暗になった……。
* * * *
私の体は水の中に沈んでいく。でも何も感じない。プールの中にいるような感覚だった。
やがて底に辿り着いたのか、体はふわふわと水の動きに合わせて揺れている。水面に向かって伸びた手の先に、何かが微かに輝いていた。
そこでようやく、自分の腰に重石がついていることに気付いた。
だから浮いていかないのね……それよりもどうして私はまだこの体にいるのかしら。死んでいるという現実はわかるのに……。
水面に映るのは月明かりだろうか。黄色い光がゆらゆら優しく輝いていた。
* * * *
私が捨てられたらしい水辺は、時間と共に水位を下げ、いつの間にかただの草地になっていた。
きっとあの雨の時に出来た池だったんだ。
朽ちかけた体に、たくさんの生き物たちがやってくる。その上に茶色や赤の落ち葉、ずっしりと重く冷たい雪が降り積り、雪解けと共に新しい命が芽吹く。私の体はゆっくりと土に還っていくようだった。
そろそろ魂も新しい場所に還りたいのにそうならないのは、この世に遺した未練でもあるからだろうか……。
* * * *
私の体は柔らかい土に包まれている。きっとたくさんの落ち葉が積もったから、堆肥になっているんだわ。
そんな時だった。あの日のような激しい雨の音がする。その雨がじんわりと私の体を濡らしていく。
突然大きな音がしたかと思うと、まるでジェットコースターに乗っているかのように、土と一緒に体が滑り落ちていく。
あぁ、どうしよう……! 私の体はバラバラになってしまった。足の骨はどこにいったの? 頭の位置もちょっとおかしい。うーん、困ったわ……。
それにしても、久しぶりに外の景色を見た。視線の先には急斜面があり、その先にはガードレールが見える。
きっとあそこから捨てられたのかもしれない。一体あれからどれくらいの月日が流れたのかしら。
木々には緑色の葉が生い茂っていた。
だけどその瞬間、死んでから初めて目が眩むほどの光に包まれたの。
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