きってもきれない男

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待てよ。おい、押すんじゃねーよ。 ここから出て行けって、なんだ。 こんな終わり方ってあるかよ。 だって俺のこと、まだ愛してるんだろ? なぁ、俺に悪いところがあるなら、直すよ。 あ、この間、強く蹴ったこと、まだ怒ってるのか? 悪かったよ。謝るよ。許してくれよ。 今度こそおまえのこと、大切にするから。 …今さらこんなこと言うの、あれだけど、 この数ヶ月、おまえと過ごせて本当に幸せだった。 どこに行くにも、何をするにも一緒。 こんな暖かい場所、初めてだった。 おまえの鼓動を聴きながら寝ると、いつも安心できた。 だからさ、出てけなんて言うなよ。頼むよ。 俺、おまえ無しじゃ、もう生きていけない体なんだよ。 ほら、俺らは、ずっとこの強い絆で結ばれてるんだ。 そうだろ? …おい、誰だ。そいつ。 刃物なんか持ち出しやがって。 俺とこいつの仲を引き裂こうって言うのか? …やめろ!やめてくれ!いやだ! 外の世界になんか、俺は出たくない! ずっとここで、ぬるま湯生活をしていたい! 肺呼吸なんかしたくない! ずっとここにいたいんだ! (大泣きする) (次第に泣き声が、赤ちゃんの産声とシンクロする) (分娩室) 助産師 「おめでとうございます!元気な男の子ですよ」
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