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川端通りから河原町通りを東に折れ、突きあたると八坂神社だ。その手前の三差路の交差点では赤信号で停車している車列が。悠長に信号待ちをしている余裕などない。そう思った紫音は、反対車線を猛スピードで、クラクションを鳴らしながら突っ込んで行った。
もう少しのとこで対向車とぶつかりそうになるも、スピードを緩めずアクセルを踏み続け、キィキィキーキーとタイヤ音を鳴らし南へと折れ曲がる。
あっという間に安井のホテルリバースに到着すると紫音は、ニ段飛ばしで階段を駆け上っていく。
そうしてドアの前に来ると、形振り構わず、力一杯ドアを蹴破り部屋に押し入った。
──バンッ!!──
薄暗い部屋の中は間接照明やテーブル、大きなスーツケースが倒れ、掛け布団が床に落ちている。またタバコの吸い殻や七海のスマホなども散乱していた。
紫音は部屋の隅っこで、丸々太った背中に鯉の滝登りの入墨が入った男を目にする。よく見ると、男は股を広げた七海に覆いかぶさっていた。
「あーん、なんじゃ! お前は!?」
正常位の体勢で後ろを振り向いた男は、梅田の配下にいる恰幅のよい巨漢男だった。先日、梅田の事務所にいた金岡の相棒だ。その男の鼻にはガーゼが張り付いている。おそらく数日前、紫音の膝蹴りで鼻の骨が折れたのだろう。
「……!? お、お前は!!」
男は驚いたとかと思うと急に怯えだし、傍に置いてあった拳銃を握り、すぐさま紫音に向けた。
「撃ってみろや!」
その瞬間、男は躊躇することなく引き金を引いた。乾いたような弾けた音が部屋中に鳴り響く。
── パンッ、パンッ 、 パンッ ──
三発の発射音だった。一発目は逸れ、ニ発目、三発目の弾丸が、紫音の脇腹と肩に被弾する。
「それで終わりか?」
何事もなかったような平然とした面持ちで男に近づこうする紫音。
異変に気づいた七海は、誰が来たのか確認しようと床に横たわたったまま顔だけを起こした。
「おいっ! …ち、近づくな! このバケモノめ! この女がどうなってもええんか!」
巨漢男は、七海の髪の毛を乱暴に鷲づかみ、こめかみに拳銃を押し当てた。
「………」
「ふっ、こいつはお前の女なんだろ。アソコの具合はまあまあ良かったぞ。グゥヘ ヘェへェ~」
吐き気がするほど、気味の悪い声をだす巨漢男。
その大きな体の下には、乱暴された七海が横たわっている。その様子をしっかり直視した紫音は怒髪天の形相となり、怒りが極限状態に達する。したらば、髪の毛が炎のように赤く逆立ち、両眼がルビーのように輝きだす。その刹那、紫音は目力だけで巨漢男の持つ拳銃をドロドロッとマグマのように溶かしたのだ。
「熱っ! 何じゃこれゃ!?」
── クン バハカ! ──
ブチギレた紫音は怒りをむき出しにして、手の平に渾身の念力をたぎらせ衝撃波を放った。とたん、巨漢男は体ごと壁に打ち付けられぶっ倒れた。
──ゴンッ! ドスン! ──
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