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人気のない京北の山深い場所。
月の柔らかい光は曇天に遮られ漆黒の闇が広がっている。辺りは木々が生い茂っているものの、車のライトを消すと無の世界のようだ。
真っ暗闇だが、夜目の効く鬼隈達は巨漢男の相田をワンボックスの荷台から引きずりおろし、首謀者を吐かせようとしていた。
そう大して時間はかからなかった。相田は痛みと恐怖に耐え切れず、梅田が首謀者だという事と、紫音の店がある雑居ビルに火をつけたのは金岡だとあっさりと白状した。
何日か前から火災報知器を鳴らしたのは、火事でもないのに、また鳴っていると思わせるためだったようだ。そうやって店のスタッフや女性達を逃げ遅らせる目的だったと、目を見張るような恐ろしい計画を暴露する。
鬼隈が相田に金岡の居場所を聞くと、紫音のスポンサーの家がある大津市石山へ向かったと言った。目的は生糸を暴行した後に、七海と生糸を囮にして紫音を呼び出し三人共、殺害しようという過激な計画だったようだ。
相田は七海を誘い出し石山へ連れて行く役割を任せられていた。当初、七海への暴力は予定していなかったようだが、紫音への復讐心がそうさせたらしい。そしてその後、金岡らと合流する計画だったと。それにあろうことか、金岡の犯行をサポートする運転手役は孝介だった。
その後も相田は、梅田に大金を積まれたことも喋った。梅田はどうしても、自分を裏切った紫音が京都で商売をし続けることに我慢できなかったのだろう。
それに紫音の出資者の存在も気にくわなかったようだ。それともうひとつ、ナマコの密漁の件を警察にリークするかもしれない男を生かしておく訳にはいかなかったと、相田が洗いざらい鬼隈達に話したのだ。
ナマコビジネスは梅田にとっては、かなり美味しいビジネスだったのだろう。
紫音が、梅田と縁を切るため弱みをつかもうと小細工をしたことが、逆に裏目に出たようだ。
金岡達が石山に向かったと聞き、鬼隈達は困惑した面持ちで、どうしたらよいものかと戸惑い覚えた。
今日の夕刻、紅葉から紫音の店の出資者である女は妖し蜘蛛族だと報告を受けている。
梅田の妹の子、金岡。少しは蛇族の血が入っているとはいえ妖し蜘蛛族相手では、ほぼ人間の金岡と人間の孝介が太刀打ちできる訳がない。
この時、鬼隈はもしも金岡達が妖し蜘蛛族に殺られたとしても、手間が省けるだけと考えていた。
だがしかし、金岡達は拳銃を持っている。もしかしたら、自分達の手を煩わせずとも金岡達が妖し蜘蛛族を始末するかもしれない。そうすると、紫音を誘惑し取り込もうとする輩が一人いや、一匹でも減る。金岡達の処分はそれからでも遅くはない。
鬼隈や斎藤にとっては、どちらに転んでも悪くない話。
考慮の末、鬼隈は斎藤に相談し金岡達を捕まえずに放置することにしたのだ。
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