蜘蛛族vs鬼が出るか蛇が出るか

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 巨大な二体の大蛇が落ちた穴の周りでは、蜘蛛族の兵と土建屋部隊がスコップで縦長の穴を埋めている。  鬼隈達が駆けつけると、既に先に落とされた石が見えなくなるまで土が埋められていた。   「サブ、下に降りて傾斜の上の方の土を掘り起こせるか? 多分、その辺りに(かしら)達の(あたま)があるはずやから」 「はい、でも奴らが飛び道具を使ってきたら、ひとたまりもありまへんで」   「それは俺がなんとかする」 「わかりやした」  小鬼の三郎太は近くにいた蜘蛛族の兵が持っているスコップを取り上げ、穴の中へと飛び込んだ。それを見ていた複数の兵が弓を手にし矢を放とうとする。  と、すぐさま鬼隈はその兵達を刀で切り倒し、土を入れている兵や土木部隊を次から次へと倒していく。  穴に飛び込んだ三郎太は、ものすごい勢いで半径三メートルほどの穴にあった土を掘っていると、突然なにか硬い物に当たったのか、カチンっと音がした。  先程、蜘蛛族が落とした石に当たったのだ。三郎太はスコップを置き素手で石を掘り出さそうとする。  大きな石を軽々と掴むと、その石を後ろ向けて上にいる蜘蛛族目掛け投げ飛ばした。  それはまるでキツネやアナグマなどを狩猟するテリア犬のように穴を掘り進めながら連続して後ろに土を飛ばしたのだ。三郎太の場合は大きな石だけど。その大きな石を次々と蜘蛛族の兵にぶつけていく。  しかししばらくすると、勢いよく穴掘りと石投げを同時にする三郎太の手が急に止まった。   「おっと、これを投げたら罰が当たりそうやな」  三郎太が拾い上げたのは、顔が丸くなったお地蔵さんだった。  どれだけの雨や風雪に耐えてきたのか? 風化して元の顔がわからなくなっている。よく見ると、胸元の膨らみが赤子を抱いているようにも見える。  三郎太がそのお地蔵さんを優しく隅に置くと、俄かにニコッと笑ったように見えた。   ちょっと不思議に思う三郎太だったが気を取り直し石を拾い上げては敵に投げる動作を再開しだす。それも尋常ではない早さで。  三郎太の腕力と持久力は大小含めた鬼の中でも一二(いちに)を争うほどだ。  一定の時間で多くの土や石を掻きだした三郎太は、鬼隈に念話で話しかける。 『アニキ! (かしら)の頭が見えてきましたで!』 『よくやったサブ! 俺も降りるぞ』  穴の周りにいる蜘蛛族を一通り蹴散らせた鬼隈は穴の中へ飛び降り、斎藤が捕らえられていた網をスパスパッと瞬時に切っていく。 「ふぅーぅ、すまんのー。世話をかけるのー。鬼隈、下におる竜一の網も頼めるか?」 「了解!」  網の一部を切ってもらった斎藤は、その破けた網の隙間からスルスルと抜け出し地上へと飛び出した。 「儂はな、冬眠せえへん蛇なんやで! 勘違いしてもらったら困るんや」  巨大な蛇に変身した斎藤は、杉の木に隠れている蜘蛛族達に落ち着いた口調で呟くと、何の前触れもなく大きな長い蛇体(じゃたい)をボーンボーンと振り回しこの辺り一帯にある杉の木を薙ぎ倒した。  斎藤のこのひと暴れで蜘蛛族の兵や土木部隊達は押し潰されたり、杉の木の下敷きになったりと散々な状況に陥った。  他の生き残った蜘蛛族達は、蜘蛛の子を散らしたようにあちらこちらに散らばっていく。蜘蛛だけに… 「大急ぎで沙羅殿を呼べ!!」  切迫した状況に土蜘蛛が声を荒げ指示をだす。         
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