茶屋 和ノ華

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 皐月はカウンター手前の席に座った。外では力強かった朝日もここまで中にくると存外に心地良い。じんわりと背中に布団をかぶせているようだ。 「桜は見れましたか?」  カウンターの向こう側に立つ婦人は手を洗いながら顔を上げた。 「ええ。年度初めでバタバタしてて、今年はゆっくり見られないかと思いましたが見事でした」 「それはそれは」と何故か婦人の方が嬉しそうな顔をしている。手を拭いた婦人はポリタンクの栓を開けてその下で構えたボトルに水を注ぐ。そして十分に溜まった水を皐月の斜め前にある大きな釜に移して何やらボタンを押した。ジーッ…と小さくなり続ける音を気にしているとそれに気づいた婦人が答えてくれた。 「水は定期的に山から汲んできますけど、これが一番容量が多くて持ち手もあって使いやすいの。釜も本当は火の方が味わい深いでしょうけど、この年になったら釜だけじゃなくてこの店ごと火にかけてしまうか分からないでしょう。便利なものはありがたく使わせていただくの」  ふふふと笑う婦人に皐月は感銘を受けた。古い物を愛する人は新しいものに剣幕を見せる。新しいものを好むものは古いものをまるで時代錯誤のように嘲笑う。  しかし、この婦人は貴重な中立な立場であり、見事に二つの手を取り合っている。新しいものが悪いわけではない、古いものが遅れていることもない。良きものを使う。不思議な店だが、とても居心地の良い店だと感じた。
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