51人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの人、伊織に対して怪しい目で見てる、俺のことも睨んでるし…」
「えっ?!」
トイレから戻ってきたあたしに、てっちゃんは小さく呟いた。
てっちゃんの視線を辿ると飛翔くんの方を見つめている。
「誰が……?」
首を動かし「あっち…」と顎を使い「若い子の奥にいる人」と言いながら新しいお酒を頼んでいたのか、それを飲み干していた。
明らかに不自然な大貫さんの視線……
てっちゃんにでさえ分かったんだからよっぽどなんだろう。
「伊織、指名の人だよね」
「うん…」
「じゃあラストまで帰らないでいてあげる、ならまた戻ってこれるでしょ?」
優しいてっちゃんの優しい気遣い……
それは胸が痛むほど嬉しい。
「ありがとう」そう笑顔をてっちゃんに向けながらも、あたしはもう一つの感じる視線を辿った。
「よし!今日は飲んだくれてやる!」
その大きくあたしに何かを伝えるかのような声は飛翔くんの口から発された。
飛翔くんの方を向くと咄嗟に視線を反らされる。
分かってる
この空間に飛翔くんがまた自ら踏み入れてしまった事で、葛藤しているだろう気持ちは
少し距離があったって、ひしひしと伝わってくる。
今すぐにでもここから逃げ出してしまいたい衝動に駆られながらも、てっちゃんが頼んでくれていた少し薄くなっているお酒をいっきに飲み干した。
「失礼します、伊織さんをお借りさせていただきます」
飲み干したグラスをテーブルに戻したと同時にボーイがあたしの目の前に立っていた。
「伊織、後少し頑張って」
笑顔で言うてっちゃんに小さく頷く事が精一杯で
あたしの心臓は、これ以上動きすぎる事をやめてくれと叫んでいるようだった。
最初のコメントを投稿しよう!