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一度待機室に戻ると大きく深呼吸をした。
なんで飛翔くんが…
さっきまで一緒にいた優しい顔をした飛翔くんはこれっぽっちもいない。
初めて会った時のような凄く冷めた目つきであたしを見つめていた。
「伊織ちゃん大丈夫?」
背後から聞こえた優しいボーイの声ですら苛立ちにかわる
大丈夫じゃなかったなら、この場から逃げれるのであろうか…。
「うん、大丈夫」
それでもあたしは仮面を付けている以上そんな事すら悟られずにいる。
「じゃあ行こうか、あの若い子達だけど覚えてる?」
「うん…」
覚えてるも何もさっきまであたしは、あの胸の中にしっかりおさまっていたはずなのに
ここに足を踏み入れてしまったのなら、ただの客としてしか見てはいけなくなる。
「じゃ…頼むね」
愛しい人の元へ行こうとしているはずなのに
あたしの足は拒否してるかのように凄く重く……
「お待たせ致しました。伊織さんです」
そう深くお辞儀しているボーイの横で、あたしは一瞬思考がストップした。
深くうつむいてあたしの方を向こうとするのに時間がかかっている。
ゆっくりと重たそうな頭を上げると冷たい視線をあたしにぶつけている。
きっと、本人は気づいていないだろう、
でもそれはあたしの心臓を突き破るかのような目……
そして、そんな目をさせてしまったのは紛れもなくあたしなのだ。
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