~prologue~

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~prologue~

「伊織ちゃんに会いたくて来ちゃった~」 中年太りとは、まさしく隣にいる人の為の言葉であるのではないかと思うほど、どうみたってお酒で出来上がったお腹だろうと思わせる姿、チノパンにはち切れそうなポロシャツ、むしろ私はこの人のこの格好以外みたこともない。 「嬉しい~あたしも会いたかったぁ~!!」 その瞬間、私の手が汗ばんだもので包まれ、目の前には真剣な眼差しで私を見つめてくる。 「お酒作るね」と、笑顔で交わすと上手く手を払いのけた。 別に触れないで欲しいとか、そんなんじゃない。むしろ触れられることくらいどうだっていい。 そんな綺麗な女なわけでもないし、勿体ぶるつもりもない。 そうじゃないんだ。 あたしは上手く笑えない。 だから、こういうムードのある雰囲気は苦手。 嘘なんて簡単に出てくるのに 口ではなんとでも言えるのに 無でいられない雰囲気だけは逃げ出したくなる。 可愛い女になってまで、ぶりっこしてまで、お客さんなんていらないし売り上げだっていらない。 あたしが欲しいのはただ1つ 金だけなんだ……。
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