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第十話:匂いフェチ の フロスト<後編>
「はぁ……」
誰もいない裏庭のベンチで独り、私はため息をこぼした。
今は授業中だ。だけどあまりにも授業に集中できなかったため、授業の担当教師であるマルスに許可をもらって校舎を出た。外の空気を吸って、気分を変えるためだ。
『必ず元のイーサンを取り戻してやるからな!! このっ、魔女めっ──!!』
フロストの言葉と涙が脳裏に蘇る。
私は自分の行動に後悔はしていない。でも、その行動のせいで涙を流すほど悲しんでいる人間がいると思うと、そりゃあ気にしてしまう。そういえばルビアの時もそうだったっけ……。あの時はマルスが「気にしなくていい」とフォローしてくれたけれど。
「私だって、この世界で生き抜くために一生懸命なだけよ。変に気にしてしまうなら、最初からゲームの改変なんてしなきゃよかったはず。それに、イーサンを殺戮人形のままにしておくのもダメでしょう……」
自分への言い訳を呟いて、何度目かも分からないため息を一つ。
そんな時、俯いた先の地面に影が差した。
「悩んでるみたいだね、お姉ちゃん」
顔を上げれば、先日廊下でぶつかった白髪の少年がそこにはいた。
また学園に迷い込んできたのかしら。服装からして、貴族のようだけど……この学園に兄弟が在籍しているのかもしれない。
「きみ、また来たの? お兄様やお姉様でも探しているのかしら?」
「ふふ。別にそういうわけじゃないよ。僕のことは気にしないで。それよりも今はお姉ちゃんの方が心配だな」
子供らしい大きな瞳が真っ直ぐ私を見つめる。水晶のような瑠璃色の美しさから目が離せなくなり、私はゴクリと唾を飲みこんだ。
なんだろう。やっぱりこの子、タダ者じゃない気がする。でもこんな子、HENTAI☆ロマンティックのキャラクター一覧にはいなかったような……。何か、忘れている……? 何だっけ……?
うっすらと頭の中に霧がかかっているような気分だった。
「お姉ちゃんはさ、何に悩んでるの? 僕でよければ教えてよ」
今ならば、サザンカが目の前のショタに反応しない理由も分かった気がした。この子には幼児特有の無知さを全く感じないのだ。むしろその逆。何もかも、全てを分かっているような目でこちらを見上げてくる。
だからだろうか、私はつい目の前の少年に前世のことを隠しつつ話してしまった。
自分がやろうとしたことが誰かの邪魔になってしまったこと。その誰かにさきほど泣かれてしまったこと。
だけど……。
「ねぇ、話を聞きたくないなら最初から質問しないでくれるかしら?」
「え~?」
少年は既に私の話に興味を失くしたようで、私に背を向けて地面を這う蟻の行列を観察していた。こういうところは子供らしいといえばらしいのだけど……。
少年は頭を掻きながら、苦笑いをする。
「ごめんごめん。あまりにも理解できなくてさ」
「えっと……私の説明、下手だった?」
「そうじゃないんだ。他人のために悩んだりするお姉ちゃんの思考自体が、さ」
少年は立ち上がる。私は「あっ」と声を上げてしまった。彼が立ち上がった際、蟻の行列を踏みつぶしてしまったのに気づいたから。でも、少年は足を上げることはしなかった。
「悩む必要ないと思うよ。お姉ちゃんは自分のやりたいことをやったんだよね。それで他人からとやかく言われても無視すればいいんだよ。例えそれで泣かれたって、怒られたって、恨まれたって……関係ないよ。自分の欲望を叶えるためなら」
「…………っ、」
私は言葉が出なかった。
その時だ。普段は声を荒げることのないイーサンがこちらに向かってくるではないか。くしゃくしゃになった紙切れを握り締めて。イーサンは私を見て驚いている様子だった。
「アリシア!? お前、どうしてここに……!? 授業中じゃないのか?」
「す、少し気分が悪くて外に出ていたの。許可はもらってますわ」
「そうか。ではすまないが、俺は学園長に話がある。学園長、緊急事態です。あちらで話を……」
「うん。りょーかい!」
私はキョトンとする。今、イーサンはなんて言ったのかしら? 学園長?? どなたが??
キョロキョロと周囲を見回してみても、それらしき影はない。やはり傍にはイーサンと白髪の少年しかいないのだ。
それって、もしかして──?
「──が、学園長ぉ!?!? この子が!?!?」
「えへへ。今まで黙っててごめんね、お姉ちゃん。一応これでも百歳以上生きてるんだよ」
百歳。その単語に顎が外れるかと思ってしまった。
少年……もとい、学園長は無邪気にぺろっと舌を出す。私はさっと顔が冷たくなったが、イーサンはそれどころではないようだ。
「学園長。生徒が一人、学園を脱走した可能性があります! ですので、向こうで話を……!」
イーサンは酷く汗を掻いていた。それだけ焦っているのだろう。
だが気になったのは私への視線だ。その視線には、私への気遣いが感じられた。私には聞かせたくない話のようだ。
私はピンとくる。そうして素早くイーサンが手に持っていた紙切れを奪った。
【本当のお前を取り戻すために僕はマドネスの森でお前を待つ。 フロスト】
紙切れにはそう書かれていた。おそらくこれはフロストがイーサンに宛てた手紙なのだろう。
マドネスの森。それはここからずっと北にある危険地帯だ。「狂気の森」とも謳われており、HENTAI☆ロマンティックの高難易度ステージの背景にもなっていた。何百、何千の魔物が生息し、弱肉強食という言葉がこの国で尤もふさわしい場所……。
そんな場所にいくら優秀な生徒会メンバーといえども学生が独りで向かって無事なはずがない。
もしも、これでフロストが死んでしまったら……
「……私の、せい……?」
声が震える。イーサンがすぐに紙切れを私から奪い返した。そうか、イーサンは私が責任を感じると思ってこのことを私に知らせたくなかったんだ。
私は胸を抑える。鼓動が昂っていた。
「短時間でマドネスの森にたどり着くとは思わないけれど……。もしかしたら教員用の天馬を盗んで向かった可能性があるね。このことを、今動ける教師達に使い魔で知らせよう」
学園長はその容姿に似合わず、冷静に対応していく。その間、私は何も動けないままだ。
私はこの世界を改変しようとしたことは間違っていないと思っている。何故なら自分が生き残るために必要なことだと思ったからだ。
でも。もしそのせいで逆に攻略対象の方が死んでしまったら──?
パンッ!!
目の前で手を叩かれる。ハッとなった。呆れたような表情をした学園長が私を見上げている。
「君に欲望は向いてないね。言ったでしょ? 他人なんか気にしても関係ないって」
「……でも、」
「とにかく。今はフロスト君を一刻も早く探しに行かないとね。イーサン君、着いてきてくれる?」
「勿論です、学園長」
学園長はイーサンの返事を聞くと、次は私に手を伸ばす。
「アリシア・ヴァイオレット。君はどうする?」
試されているような瞳だった。
私はイケメンが好きだ。それと同じくらい自分が好きだ。だからこそ、自分好みのイケメン☆パラダイスを目指して、かつ自分が生き残れるように行動してきた。
でも、だからって──その私の行動で誰かが死んでしまったら、後味が悪すぎてこの先ずっと後悔するに決まってるじゃない! 私が私を後悔させないように、フロストは絶対に助けなければいけないのだ!
私はためらわずに学園長の小さな手を取った。
***
幼い頃から、フロスト・クリンは他人よりも鼻が敏感だった。
それにフロスト自身が気づいたのは定期的に母親から血の匂いがすることに気づいた頃からだ。それを母親に指摘した時の、なんとも気持ち悪そうな表情をフロストは今でも覚えている。
そんな鼻を持つが故に、人混みは苦手だった。大勢の人間の体臭が一度に漂ってきて、悪い意味で酔ってしまうからだ。だが、そんなフロストでも好きな匂いはあった。
それこそ幼馴染であるイーサンの体臭が好きだった。信頼している彼ならば気兼ねなく近寄ることができたし、変な香水をつけたりするようなタイプでなかったのが大きいだろう。それに彼はフロストがいくら彼の匂いを嗅ごうが止めはしなかった。
そんなイーサンの匂いの中でも特にフロストが好んだのは、戦闘後の──彼の父親の無茶な指示による死線を乗り越えた後のもの。彼の汗と殺した魔物の血で汚れた彼の首筋を嗅げばクラクラと眩暈がするものの、心地のよい酔いに襲われるのだ。まるで酒を嗜んだ大人のように頬が熱くなり、踊りだしたくなるくらい愉快な快感が全身を走る。彼の強く濃い匂いにフロストは依存していくようになった。
だが数年前、フロストは突然その匂いを嗅ぐことができなくなってしまった。
何故ならアリシアが殺戮人形であったイーサンを変えたからだ。
もう無茶な戦いはしない、アリシアのために。そうフロストに強く言い放ったイーサンの頬はほんのり赤らめていた。魔女に誑かされた。フロストはすぐにそう直感した。
もうイーサンの、血と汗がドロドロに混ざった体臭を嗅ぐことができない。
それを理解するだけで、頭が狂いそうになる。他の貴族の匂いではいけない。イーサンの、あの強く濃い匂いでなければいけない……。
「クソッ! それもこれも、あの魔女のせいだ! アリシア・ヴァイオレット! 絶対に許さない……!!」
舌打ちをしながら、フロストは不機嫌そうに天馬から降りる。
レアルタ魔法学園では今頃大騒ぎだろうか。教員の天馬を盗んでまで学園を飛び出したのだ。もしかしたら退学かもしれない。
……それでも、フロストは以前のような“殺戮人形”のイーサンに戻ってほしかったのだ。
「狂気の森」というだけあって、周囲には正体不明の魔物達の呻き声が辺りから聞こえてくる。連れてきた天馬も怯えていた。フロストはなんとか天馬をなだめながらゆっくりと森の奥へと進んでいく。
「手紙と一緒に、番の指輪という魔道具を置いてきた。これでイーサンは同じ指輪を持つ僕を簡単に辿ることができる。後はイーサンが助けに来てくれるのを待つだけだ。あいつのことだからすぐに助けにきてくれる……」
フロスト自身、今の自分があまりにも愚かで無謀な行動を取っていることを自覚している。しかし、イーサンが魔物が溢れるこの危険地帯に来れば、嫌でも以前のような殺戮人形の本能が目覚めるはずだ。
彼の、死線に興奮する性癖はなくなったわけではなく、抑え込まれているだけなのだから。
「あいつが近づいて来れば、指輪が知らせてくれる。それに合わせて僕は魔物用の興奮剤を自分にかければいい。そうすれば、あいつは僕を襲う魔物と戦わざるを得ない。よし、大丈夫だ……!!」
下手すれば、フロストは死ぬ。だが、こうするしか方法はなかった。あの匂いを嗅ぎたいという欲望がフロストの理性や知性を鈍らせた。
独り言を呟きながら、恐怖をどうにか紛らわせる。あまり効果はない。天馬に身を寄せ、震える体を支えた。
「僕にはもうイーサンしかいないんだ。イーサン以外に僕の鼻を癒せるのは──あの子しかいない。けれど、もうあの子には会えないだろうから……」
あの子。その言葉に、フロストはふと目を伏せた。
瞼の裏に浮かぶのは視界いっぱいに広がる、可愛らしい花柄の──
──と、その時だ。
怯えた天馬の嘶きがフロストを我に返らせた。
「ぐるるるる……ッッ!!」
フロストは顔を青ざめる。十数メートル先、巨大な人喰い狼──カニバルハウンドと目が合った。
頭が真っ白になった瞬間、天馬が途端に駆けだす。フロストは思わず手綱を離し、そのまま天馬に逃げられてしまう。
「お、おい! 待て! 逃げないでくれ!」
そんな言葉が、生存本能に従う天馬に通じるはずもなく──フロストは正真正銘一人になってしまった!
歯がガチガチと鳴る。そのまま足が崩れ、尻もちをついた。足はもう動かない。意味のない嗚咽が口から漏れた。
「僕は、馬鹿だ……」
そんなことは分かっていた。だが、それでもフロストは自分の欲望に抗えなかったのだ。イーサンの体臭が嗅げないなら、もう死んでもいいとまで思ってしまった。
濡れた瞳を隠すように目を瞑った。瞼の裏には可憐な少女の姿が浮かんだ。顔も容姿も覚えていないので、ほとんどフロストの想像の姿だが。
「イーサンの匂いが嗅げないなら……せめて、最期にもう一度、あの子の匂いを嗅ぎたかったなぁ……。僕の初恋の、あの子の、あの匂いを……」
その時、だった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
──フロストの真上から、絶叫が聞こえたのは。
「はぁ!?」
フロストは絶叫が落ちてくる真上へ顔を向ける。
途端にフロストの視界いっぱいに──桃色のレースが、広がった──。
***
学園長と一緒に来たのは間違いだった。今なら迷いなくそう言える。
私、イーサン、学園長はフロストを救出するべく三人でマドネスの森に向かっていた。学園長の従魔獣、成人男性三人は余裕で背に乗せることができるほどの巨大な不死鳥に乗って。
だけどマドネスの森の上空に到着するなり、学園長は「フロスト君が危ないから早く助けに行ってあげて!」と満面の笑みで私を不死鳥から突き落としたのだ。
私は絶叫を上げる。スカートが翻るとか、そんなのはどうでもいい。正直、失禁してしまいそうだった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
森の木々が近づいてくる。私の身体はどうなってしまうのだろう。こんな上空から落ちてしまえば死は確実だ。あの鋭い木々の枝に身体を貫かれて死ぬのか、それとも地面にぶつかり潰れて死ぬのか……。
──どちらにしろ、短いヒロイン人生だったわ……。
私はせめて一瞬で死ぬことができるように祈るしかなかった。だけど。
「ああもう! 世話が焼けるんだからっ!!」
ビュンッッ!!
サザンカの声が聞こえたと同時に強い風が私の身体を包む。ふわっと浮遊感に襲われた。そのまま思ったよりも優しく地面に落ちる。少し膝はすりむいてしまったのか、痛みを感じたけれど。
サザンカが風魔法で助けてくれたのだろう。相変わらず私を幼女にするための魔力を温存しているようで、姿は見えないけれど。私はこの時ばかりは素直に「ありがとうございましゅさざんかしゃまぁ……」と情けない声で彼に感謝した。
「アリシア、大丈夫か」
サザンカに感謝の言葉を捧げている間に、私の背後でもう既に危機は過ぎ去っていた。
人喰い狼、カニバルハウンドの首が目の前に転がっていたからだ。私と一緒に不死鳥から飛び降りたイーサンが着地するなり、素早く狼を仕留めたのだろう。流石イーサン。やはり頼りになるわね!
……だけどここで問題が一つ。なんとなく、違和感を覚えた。違和感の原因は私の下半身……もっと細かく言えば私のスカートの中からだ。
私はソレに気づくなり、再び絶叫しつつ、飛び跳ねた。
何故なら。
「はぁ、はぁ……」
……どういうわけか、息を荒げたフロストが私の下で横になっていたからだ。
最悪だ!! つまり私は彼の顔面に着地をして……彼にバッチリ下着を見られたわけだ!! それだけじゃない、おそらく匂いも……!! 顔面に下半身押し付けてしまったんだから、そりゃあ匂いも嗅がれてるでしょうね!! もう嫌だぁ!!
「あり、しあ、ヴぁいおれっと…………!!」
フロストはふるふると身体を震わせていた。突然嫌いな私が上空から降ってきて、顔面に下着を押し付けられたのだ。彼が激怒するのも頷ける。例えそれが私の故意ではなくても。
私はどう彼を謝ろうか考えていると、フロストの鼻からタラリと鼻血が垂れていることに気づいた。
私が彼の顔面に着地した衝撃で鼻の中を切ったのだろう。すぐに私は彼に自分のハンカチを差し出す。彼はそんな私のハンカチを無視して──私の両肩をガシッッと強く掴んだ。
「そうだ、求めていたのはこの強く濃い匂いなんだ……!! ようやく見つけた、僕の初恋の人……!!」
……。…………。……? ……今こいつ、なんていった?
私は突然の展開に思考が追い付かなかった。確かにフロストに初恋の人がいるという話は聞いていた。
だけど、どうしてそれが私になるのだろう。今まで彼とお互い面識はなかったはずだ。理解できない。今の衝撃で頭がおかしくなってしまったのかしら。
フロストはそんな疑惑を持つ私をよそに、興奮しながら話を続けた。
「この匂いは間違いない! 君こそが、僕の初恋の女の子だったんだ! 覚えていないか!? 幼い頃、イーサンの家で読書中の僕の上に君が落ちてきて!! 今みたいに君の下着が僕の顔面に宛がわれて……!!」
……そう、言われてみると……私が前世の記憶を取り戻す前に、そんなことがあったような……?
前世の記憶を思い出した際のインパクトが強すぎてそれ以前の記憶は曖昧なものになっていたため、完全に忘れてしまっていた。そうだ、お父様がイーサンの父親と話があるからってスカーレット家に私を連れて……暇だから好奇心で庭の木に登ってみたら……えっと、降りられなくなって……落ちちゃったのよね、たしか。
チラリ、と助けを求めるかのようにイーサンを見る。彼はコクリと頷いた。
「だからずっと前から言っているだろう。お前達は初対面ではないと。その場面は俺も見ていた。フロストの隣で鍛錬をしていたからな」
「じゃ、じゃあ……イーサンお兄様が私をフロスト様に紹介する時に変な言い方をしていたのも……」
「そういうことだ。まぁ、その後フロストは気絶。アリシアはわんわん泣き出して対面どころではなかったからな。お互いを覚えていないという意味では初対面とも言えるかもしれないが……」
イーサンにとっては既に面識があるであろう私達が初対面のような挨拶をしていたから不思議に思っていたのだろうか。それならもっとはっきりと言ってほしかったものだ。
まぁ、不器用なイーサンらしいといえばらしいのだけど……。
もう一度、私はピクピクと引きつった顔でフロストを見る。フロストは未だ横になったまま己の身体を強く抱きしめ、頬を紅潮させていた。
「あぁ、あぁ、まさかもう一度、あの匂いを嗅げるなんて……!! あの時、幼い僕がどれだけ君の匂いに興奮し、発情していたか……! 頭を打って記憶も曖昧だったし、木登りをする貴族の少女が存在するはずがないと思い、花の妖精に悪戯されたんだと諦めていたんだ!!」
そう独り呟きながら身体をくねらせるフロストの様子はウジ虫のようだった。私は危険を察し、イーサンの背中に隠れようとしたけれど──その前にフロストが風のような速さで私の前に立ちはだかる。
「アリシア・ヴァイオレット! いや、親しみをこめてアリシアと呼ばせてもらおうか。アリシア! 一生のお願いだ。僕に、君の──下着の香りを、もう一度堪能させてはもらえないだろうか? そうすれば、イーサンの匂いはもういらないんだ! 君の匂いは、まさに僕が求めていた理想なんだよ!! それが駄目なら、せめて君の老廃物でもいいから……! 嗅がせてくれ、もっと濃いやつを!!」
「妥協案の候補じゃないですよね、それ!? むしろグレードアップしてますよね!? どちらにしろ下着も老廃物も嫌です!!」
フロストに両手を握られる。そのマグマのような情熱を秘めた彼の瞳に私は全身にゾワリと冷たいものが稲妻のように走る感覚に襲われた。
どうしてこうなるの!? どうして、私はいつもこうなるの──!?
▼フロスト は 汚損性愛 を 覚えた!
▼アリシア は 【称号:フロストの初恋の人】 を 獲得 した!
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