お兄ちゃんの教え

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お兄ちゃんの教え

「見てご覧。あそこの地面に掘られた穴。あの中には、肉は柔らかく美味しくて、艶かで耐久性のある毛皮はお金に換えられる……そんな生き物が、身を寄せ合って暮らしているんだよ?」  兄の話を聞いた弟は、地面近くの穴を覗き込んだ。しかし、その穴は暗く、奥深くを見ることは叶わなかった。 「この生き物も、魔法を使えさえすれば、地面に這いつくばることもなく、穴の奥に手を伸ばすことなく手に入る。穴の中を這うようなイメージで、風を巻き起こす魔法を使って……奥側から、土を崩して穴を埋めてやる。すると」  その時、穴からは丸みを帯びた獣が複数飛び出した。それらの獣は、穴を出るなり魔法で命を奪われ、兄は獣の後肢を持って弟へ見せる。 「穴から生き物が出てくるから、直ぐに仕留める。最初は魔力操作が難しいだろうけど、慣れれば簡単だ」  そこまて話したところで、兄は震えている弟の顔を覗き込んだ。弟は、命を奪われたばかりの獣から目を反らし、起きたことを受け入れようとはしていない。 「どうしたの? 何で震えているの?」  その問いに弟は答えず、震えたまま目を瞑った。一方、兄はまだ体温の残る生き物を見下ろし、小さく息を吐く。 「もしかして、可哀想って思った? やり方が残酷だって思った?」  弟は無言で頷き、兄は溜め息を吐く。 「不思議だね。枝を切ることには、君は躊躇わなかったのに」  兄の話に、弟は顔を上げる。弟の瞳には涙が浮かんでいたが、兄がそれを心配することはなかった。 「植物だって生きている。確かに、枝を切った位じゃ死なないけどね。それでも、鳴き声をあげなくても、体温がなくても、植物も生きているんだ」  兄は手にしていた獣を弟に渡し、地面に伏したままだった獣の後肢を掴んだ。 「生きる為に、他の生き物の命を奪う。それ位、動物もやっていることだよ。ただ、人間だけが、生きる上で必要のない感情を持っているだけだ」  兄は持てるだけの獣を持ち上げ、弟を見下ろす。
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