お兄ちゃんの教え

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「動物達は、生きる為に他の命を奪う。ただ魔族だけは、快楽の為に人間を弄び、魂だけを喰らう」  兄は空を見上げ、わずかに目を細めた。 「魔族って?」 「姿形だけは人間に似ているけど、様々な理が違う存在のことだよ。その糧は、人間の魂だけだと言われている。それも、人間側の負の感情が大きい程に腹を満たせるらしい。それに、魔力持ちの人間の魂だと、取り込んだだけ魔族の魔力の上限が上がるそうだ。だから、魔法使いは狙われやすいとも聞く」  弟は兄の話を真面目に聞き、魔族についての説明は続く。 「魔族には、人間の魂しか必要ない。だから、残った人間の体を、飢えた獣が貪り食うこともあるそうだ。そして、魔族の食い残しを食べた獣は、いずれ魔物になると言う」  兄は怖い表情を浮かべながら弟を見た。しかし、弟は怯むことなく問い掛ける。 「魔物になっちゃうの?」 「そう、魔族が残していった人間の肉を喰らった獣は、いずれ魔物になるそうだ。獣達は、果実や葉、自分より小さい生き物を食べるものだけど……一度魔物化したら、常に人間を食べ物として狙うようになるらしい。恐ろしい存在だら、専門的に倒す人も居るんだって」 「そっか」  弟は納得いった様子で頷いた。一方、弟の仕草を見た兄は、安心した表情になる。 「流石に、人間側が集まってしっかりとした武器を持てば、勝てる魔物が殆どだけどね。中には、力を得て強くなった魔物も居るから……いや、この話は後にしよう。空気の匂いが変わった。雲も出てきたし、雨が降りそうだから、もう帰ろう」 「分かった」  兄弟は暗くなり始めた小道を走って、帰路についた。
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