兄弟の別れと呪い

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兄弟の別れと呪い

「来月から、僕は全寮制の学校に入る。だから、簡単には会えなくなる」  それを聞いた弟は口を引き結び、目を伏せる。 「何で? 学校って、入ると簡単には会えなくなるの?」  その問いに、兄は困った様な表情を浮かべた。しかし、直ぐに笑顔を作ると、兄は弟の頭を優しく撫でる。 「魔法使い用の学校はね、時間や季節を限定して使える魔法も教えているんだ。だから、それを教わる為に、生徒はずっと学校に居ないといけない。時間や季節、そう言った条件が魔法発動に関わることもあるから、授業は変動的で……天気によっては出来ない授業もあるらしいから、ずっと学校の敷地内に居なければならない」  兄は腰を曲げて弟と目線を合わせた。弟は目に涙を溜め、鼻を啜る。 「じゃあ、学校になんて」 「それだけは、愛する弟の頼みでもきけない。僕が僕として生きていく為にも、僕達の未来の為にも、それだけは出来ない」  兄は低い声で言葉を紡ぎ、弟の肩を掴んだ。 「良いかい? 人間には、その時その時でやるべきことがある。僕にとって、これからは自分の為に知識やスキルを付けるべき時間なんだ。それを遮ることは、ザウバーでも許せない」  兄は手に力を込め、肩の痛みに弟は顔を歪める。 「生きていく為に必要な、最低限のことは教えた。当面必要な衣服も誂えた。長期保存が可能な食糧も準備した。もう、来月には僕は君を置いて行かなければならない。それが分かっているから、ずっと準備をしてきた。だから」  兄は弟から手を離し、曲げていた腰を伸ばした。そして、冷たい眼差しで弟を見下ろすと、右手を自らの顎に添える。 「それ以上のことは、もうやらない。僕から教えられることは全て教えた。これ以上のことは、もう僕には出来ないから……君が学校に通える年になるまで、お別れするしか出来ない」  兄は弟に背を向け、歩き始めた。弟の瞳に映る兄の姿は涙で歪み、小さくなって消えた。
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