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「行っちゃったね」
「そうだな」
真田の背は、もう遠くに消えていった。
「で、どんな願いだったんだ? ずいぶんと穏やかな顔をしてたけど」
「これ、見て」
──俺の絵を見ている間だけでも、嫌なことを忘れられる人がいますように。
優しい願いだった。自分の為じゃなく、見ず知らずの誰かの為の願いだった。
「あとね、あの人が来る前に拾った願いがあったんだ」
──少しの間だけでもいいので、心の落ち着く時間をください。
「これ、二つとも叶えてあげようと思うんだ」
「たまにはいい仕事するじゃないか」
「たまに、は余計だよ」
ネネはほんの少し頬を膨らませた。それには答えずに、私はまたほかの誰かの願いを探すことにした。
「ねぇ、シン」
「ん?」
「私は好きだよ、この仕事」
愛おしそうに願いを抱きしめるネネの頭に、またひらりと願いが舞い落ちてきた。
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