願い、ひらり

10/10
前へ
/10ページ
次へ
「行っちゃったね」 「そうだな」  真田の背は、もう遠くに消えていった。 「で、どんな願いだったんだ? ずいぶんと穏やかな顔をしてたけど」 「これ、見て」   ──俺の絵を見ている間だけでも、嫌なことを忘れられる人がいますように。  優しい願いだった。自分の為じゃなく、見ず知らずの誰かの為の願いだった。 「あとね、あの人が来る前に拾った願いがあったんだ」  ──少しの間だけでもいいので、心の落ち着く時間をください。 「これ、二つとも叶えてあげようと思うんだ」 「たまにはいい仕事するじゃないか」 「たまに、は余計だよ」  ネネはほんの少し頬を膨らませた。それには答えずに、私はまたほかの誰かの願いを探すことにした。 「ねぇ、シン」 「ん?」 「私は好きだよ、この仕事」  愛おしそうに願いを抱きしめるネネの頭に、またひらりと願いが舞い落ちてきた。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加