願い、ひらり

2/10
前へ
/10ページ
次へ
「ねぇ、シン」 「ん?」 「ここの仕事、楽しい?」  ネネの瞳に、止まることなく降り続けている願いが映り込んでいる。  我々神にはいろんな仕事がある。    たとえば、目に余る行動をした人間にバチを与える仕事。それから雨ごいが行われた地域に雨を降らせる仕事や、運命の相手を引き合わせたりなどなど、その仕事は多岐にわたる。  それぞれの神がどうして今の仕事にあてられたなんかなんて、はるかに昔すぎて誰も覚えてない。この仕事が楽しいかどうかなんて、ほかの仕事についたことのない我々には比べる対象もないのだから、答えようがないのだが。  ちなみに我々の仕事は大きく分けて二つ。  一つは、人間の願い事の処理。といってもすべて叶えていればきりがない。だからこうして一日に数枚、下界から届いた無限の願いの中から何かを叶える。中には現実には起こる可能性が限りなくゼロに近い願いもまぎれている。そんな願いが叶ったとき、人間はそれを奇跡と呼ぶ。  そして、もう一つは── 「あ、お客さん!」  ネネの問いにまだ答えていないことを気にする様子もなく遠くを指さした。  そこにはきょろきょろと周りを見回す一人の男がいた。人間の寿命を迎えるにはまだ早そうだ。四十歳くらいで顔の下半分に短いひげが無秩序に生えていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加